上 下
13 / 58

空白のあま夜

しおりを挟む
*****

翌朝。
ズキズキとした頭の痛みで、ふいに目が覚めた。
目の前には、誰かの白いTシャツ。
あたしはそのTシャツの胸付近をきゅっと両手で掴んでいたらしくて。

「…?」

…何か、いつもの朝と違う。
そう思って、顔を上げると、その白いTシャツを着た主は…

「っ、!?」

なんと、まさかの柳瀬さんで。
…え、何で!?何で同じベッドで並んで寝てるの!?
まさかのこの状況にびっくりしたあたしは、掴んでいたそのTシャツをパッと離した。
あ、ってかシワ!Tシャツシワになっちゃったし!
あたしは自身が掴んでいたその部分を軽くはたくと、思わず、寝転がったまま柳瀬さんから少し離れた。

「…っ、」

…熟睡中の柳瀬さん。
そう言えば、昨夜は居酒屋で一緒にご飯を食べて、どういう流れだったか忘れたけど、柳瀬さんのマンションにお邪魔させてもらったんだっけ。
お風呂と洗濯機を借りたあと、メイクを落としたところまでは覚えているけれど…その先が全く思い出せない。

まさか…ヤっては…ないよね?
そう思って自分が着ている服に視線を落とすと、あたしは見慣れない大きめのグレーのTシャツを着ていた。
それに下は、黒いハーフパンツ。
……あれ?でも少しスースーするな。
そう思って首元からTシャツの内側を見てみると、私は上下ともに下着をつけていなかった。

「…!?」

でも確か…お風呂を借りた直後は、まだTシャツとか借りていなくて、スーツのままだったはず。
あたしが覚えてないだけで、柳瀬さんに借りて着替えたんだよね?
え、でも何で下着はつけてないの。
私が自分で着替えた?で、洗ったのかも。
いや、あまり考えたくはないけど…私が酔っ払ってたから、柳瀬さんが着替えさせた?え、ってことはほんとにヤッちゃったのかな。

でもでも、身体に違和感とかないし、多分…ヤってはない。
………た、多分。

そう思いながら、独りモンモンと考えていると、そのうち柳瀬さんの方から呟くような声がした。

「…五十嵐さん…」
「…!」

その声にあたしが顔を上げると、さっきまで寝ていた柳瀬さんはいつのまにか起きていて。
…あ、起こしちゃったかな。
眠そうな柳瀬さんと、目が合う。
だけどあたしは、彼氏でもない、むしろ会社の上司とのまさかのこの現状に思わず恥ずかしくなって、目を逸らした。

「…っ、」

き、聞けない。
夕べ、何があって…結局ヤったのかヤってないのか、聞きたいけど聞けない。
あたしがそう思いながら、とりあえず「…おはようございます」と呟くように言うと、柳瀬さんも「おはよ」と言って欠伸をした。

…気まずい。
彼氏でもないのにお泊まりして、一晩2人きりで過ごすとか。ってかこの状況何。
あたしがそう思いながらとりあえずどうすればいいのか考えていると、そのうちに柳瀬さんが言った。

「頭、痛くない?」
「え、」
「昨日すっごい飲んでたから。気分悪くない?大丈夫?」
「……凄い痛いです」
「ははっ。やっぱり、」

あたしが柳瀬さんの問いに正直に答えると、柳瀬さんがそう言ってちょっと笑う。
「薬あるよ」って言うから、あたしはまたお言葉に甘えて薬を貰うことにした。

「もしかして、頭痛くて目覚めた?」
「そんな感じです」
「五十嵐さんてお酒弱いんだね」
「…、」

柳瀬さんはそう言いながら、ベッドから起き上がって「ちょっと待ってて」と薬を取りに行ってくれる。
寝室を後にして、数分後、薬と烏龍茶を持った柳瀬さんがまた寝室に戻ってきて…。

「あ。ありがとうござい、」

しかし、そう言って烏龍茶を受け取ろうとしたその瞬間、あたしはふいに夕べの記憶を少し思い出した。

「っ…烏龍茶!!」
「え…?」
「夕べ、烏龍茶飲みましたよね、あたし!思えばそっから何か可笑しい気がする…!」
「…、」
「確か烏龍茶飲んだら体熱くなって、意識がぼーっとしてきてそれでっ…」

そうそう、そうだよ思い出した!
その時柳瀬さんと何か言葉を交わした気がするけど、そこは覚えてないけど、とにかくあの時水分とったら意識が途切れたんだ。
あたしはそう言って独り納得するけれど、その向かい側で一方の柳瀬さんが薬を手に持ったまま、真顔であたしを見つめている。
ふとその視線に気がついたあたしは、やがて今の自分の失態に気がついて、言った。

「あっ、ちがっ…違うんです!柳瀬さんを疑ってるとかじゃないですから!」
「え、」
「あたし、柳瀬さんが烏龍茶に何か変なもの入れたとか言ってるわけじゃなくて、ただ思い出しただけですから!気にしないで下さいね、」
「……」

あたしはそう言うと、柳瀬さんがあたしに向かって差し出してくれている薬を受け取る。
さっきの言い方だと、あきらかにあたし柳瀬さんのことを疑ってるみたいだったな。それはさすがに失礼極まりない。泊まらせてもらってるのに。
そう思いながら早速それを飲んだら、その間に柳瀬さんが言った。

「…昨日は」
「…?」
「五十嵐さんが、思いの外泥酔してくれたから、どうしようかと思ったよ」
「す、すみません」

ってか、泥酔“してくれた”って。

「居酒屋で、まだほんの数時間しか経ってないのに、俺の0時回ってるって言葉に純粋に騙されたり。
っつか、まだ出会ってまもない男が一人で住むマンション、自分から行きたがるなんてさ」
「…え、」
「俺が最初に立ててた計画、上手くいきすぎて、逆に引いた」
「…あ、の。何言っ…」
「もしかして、俺が操られてんのかなって、思ったじゃん」

柳瀬さんはそう言うと、あたしの隣に腰を下ろして、自身の頭をガシガシと掻く。
だけど、その隣で。柳瀬さんの言葉に半信半疑…いや、わけがわからなくなるあたし。
え、何それ何それ。
それってまるで…。

「……じゃあ、夕べのは覚えてないワケだ?」
「…あ、あれ…とは?」
「…、」

あたしは柳瀬さんの言葉に、恐る恐るそう問いかける。
だけど一方、そんなあたしに柳瀬さんは何故か意味ありげにあたしから目を逸らした、から。

……え。
まさか、夕べヤったの…!?







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

極道に大切に飼われた、お姫様

真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「僕は絶対に、君をものにしてみせる」 挙式と新婚旅行を兼ねて訪れたハワイ。 まさか、その地に降り立った途端、 「オレ、この人と結婚するから!」 と心変わりした旦那から捨てられるとは思わない。 ホテルも追い出されビーチで途方に暮れていたら、 親切な日本人男性が声をかけてくれた。 彼は私の事情を聞き、 私のハワイでの思い出を最高のものに変えてくれた。 最後の夜。 別れた彼との思い出はここに置いていきたくて彼に抱いてもらった。 日本に帰って心機一転、やっていくんだと思ったんだけど……。 ハワイの彼の子を身籠もりました。 初見李依(27) 寝具メーカー事務 頑張り屋の努力家 人に頼らず自分だけでなんとかしようとする癖がある 自分より人の幸せを願うような人 × 和家悠将(36) ハイシェラントホテルグループ オーナー 押しが強くて俺様というより帝王 しかし気遣い上手で相手のことをよく考える 狙った獲物は逃がさない、ヤンデレ気味 身籠もったから愛されるのは、ありですか……?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

俺様系和服社長の家庭教師になりました。

蝶野ともえ
恋愛
一葉 翠(いつは すい)は、とある高級ブランドの店員。  ある日、常連である和服のイケメン社長に接客を指名されてしまう。  冷泉 色 (れいぜん しき) 高級和食店や呉服屋を国内に展開する大手企業の社長。普段は人当たりが良いが、オフや自分の会社に戻ると一気に俺様になる。  「君に一目惚れした。バックではなく、おまえ自身と取引をさせろ。」  それから気づくと色の家庭教師になることに!?  期間限定の生徒と先生の関係から、お互いに気持ちが変わっていって、、、  俺様社長に翻弄される日々がスタートした。

処理中です...