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二章、学園時代

15歳ー4

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 「あいつは僕の弟だが、王族ではないし、貴族でもない。ただ、僕の影として生きている存在なんだ」

 にこにこと語るレイドリック殿下が気持ち悪かった。
 レイはこんな顔を一度もしたことはない。
 いつも穏やかに笑っているか、目をキラキラと輝かせて語ってくれていた。
 双子と聞いても、全く違う。

 『セイカは知っていたのよね?』
 『精霊の気配が違っていたからな』
 『・・・そう』
  
 セイカが肩の上で身を震わせる。

 「どうして、わたしにバラしたの?」
 「どうして?」
 
 ヒヒヒッと笑う。

 「いや~、まさかあいつと君が知り合いだったのが面白くてね。
 時たまユーノの監視を掻い潜っていなくなると言ってたからその時かな?いつどこで会ってたんだか。
 最近あいつに会えてないだろう?
 今、あいつはどこにいると思う?」
 
 どこ?って?
 何故聞いてくるのかわからなかった。
 確かに最近会えないでいたが、何かあったのだろうか?

 「サネイラ国に行ってる」
 「サネイラ国?」

 昼間の話にも出てきた国だ。
 血の気が引いた。

 「あいつはサネイラ国に諜報活動へ行ってるんだ。アス兄上の今後の立場を少し助言したら、快諾してくれてね。君なら意味わかるよね」
 「それは・・・脅したんですね?」
 「脅したって。人聞き悪いなぁ」
 
 口の中が乾く。
 実の弟に諜報活動を命じているなんて・・・。
 
 目の前にいる人物が化け物のように思え震えてきた。

 「やめろ」

 セイカが人型になり、わたしを支えてくれた。

 「人型になれるのか」
 
 ユーノがレイドリック殿下の前に一歩でて、いつでも剣を抜ける体制になる。
 それを抑えるように殿下が合図した。

 「ユーノ、よせ。精霊に剣は通らん。それより精霊どの。これは人と人のやり取り、精霊に干渉できませんよ」
 「だからなんだ?」
 「わかっているなら、見ているだけです。は彼女と話をしているのですから」

 睨んでくるような視線を向けながらも口元には笑みを浮かべている。
 ころころと表情を変えるのが、怖い。

 「君の力がこの国には必要だ。私はこの国を強い国に変えたい。その実現のためならなんだってする。そうなれば私の命は常に狙われるだろう。そんな中、真っ先に命を落とすのは私の影であり、手足であるレイザードだ・・・。あと光の魔力を持つカリナ。だからこそ、君には護ってほしいんだ」

 何故、こんなに笑みを崩さず語らえるのか分からなかった。
 
 震えが止まらず、思わずわたしはセイカの袖を握りしめる。
 
 「君が両親に愛されていなくても君は真っ直ぐで優しい人間だと聞いている。妹思いで、仲間思い。君レイザードも、アス兄上も。君の先生も・・・。が護ってくれれば、君の大事な人たちは幸せなままでいられる。
 君さえ頑張ってくれたなら、多少なりとも君の願いを叶えられるかもしれないよ?例えば・・・レイザードの自由、とか?」
 「やめろ!」
 「フフフッ。精霊の癖に人間に楯突くとは。ちゃんと使役しないと・・・。まぁ、いい。エルファ・ロザウド。いい返事を待ってるよ」

 セイカのピリピリした雰囲気さえものともせず、レイドリック殿下は用事は終えたと言わんばかりにユーノ様を従え、城に帰って行った。

 セイカがわたしを包んでくれる。優しい東の国の香りがわたしの鼻腔をくすぐる。

 「エル。逃げろ。こんな国に未来はない」
 「でも、そうしたら・・・」

 どうなる?
 カリナは?アスナルド殿下もアウスラー先生、魔術科のみんなもどうなってしまう?それにレイは?
 ずっとレイドリック様のために生きていくの?あの笑顔が見られなくなる・・・。

 「おまえは優しすぎる。心を壊してほしくない」

 わたしの顔は服に埋もれているためセイカの表情は見えなかったが、その声は切なく聞こえた。
 
 しばらくこのまま抱きしめてくれる。

 東の空が白み始めたのがわかった。

 「戻らないと・・・」
 「そうだな・・・帰れるか?」
 「・・・帰れるわ」
 『・・・そうか』

 彼はポンといつもの姿に戻ると肩に乗った。ふわふわの胸毛が頬をくすぐる。

 わたしは服についた土を払い、グッと踏み込み地面を蹴って飛び上がった。

 山の稜線が赤く染まっていくのが見える。
 城の外に広がる街並みが美しかった。煙突から煙が立ち上っている。
 
 「セイカ・・・。わたしを助けてくれる?」
 『契約しただろう』
 「そうね・・・。セイカ。わたし、やっぱりこの国が好き。カリナが好き。レイだって好き。先生も。セイカ、あなたも好き。できるならすべてを護りたい」

 涙が溢れた。
 
 『わかった。おまえがそう願うなら、我は従おう。だが、約束しろ』
 「何を?」
 『1人で抱え込むな。我がいる。泣きたいなら胸をかそう。怒りたいならこの身をさしだそう。逃げる時は手伝ってやる』
 「・・・その時は、お願いするわ・・・」

 太陽が昇ってゆくのを見ながら、セイカの頭をなぜる。頬に擦り寄ってくれたのが柔らかく温かかった。
 
 
 数日後、わたしはレイドリック殿下に了承の旨の返事をだす。
 アウスラー先生は渋い顔をしていたが、自分の意思を押し通す形となった。
 
 残りの期間で魔術科の過程をこなすためにわたしは勉学に励んだ。



 次の春、わたしは最年少で魔術騎士団に入団することになる。
 その傍には魔術師の教師を辞めたアウスラー先生も一緒にいたー。

 

 
 
 

 
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