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三章、サネイラ国
レイザード 3
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サネイラ国に入って約半年。
髪の色、瞳の色を変えサネライ国に滞在している貴族の縁戚を頼ってきた留学生として学園に入っていた。
サネイラ国は鉄が豊富に取れるため、鉄製の製品が多く見かける。
生活に便利な道具や装飾品に溢れているため、『魔術』文化があまり浸透していない。逆に職人たちの生産技術の高さが見て取れた。
学園もサブリナ国とは雰囲気が違い和気藹々としている。
会話の端々に専門用語が出てくるのには辟易してしまうが、それさえなければ楽しい。もし、叶うならエルファと通いたくなる。きっと彼女もここでなら、友達を作り笑い合いながら学園生活を謳歌できるのではとさえ思った。
「ザード、どうした?」
この国で最初にできたトーマスが聞いてくる。癖のある赤毛に夏の葉っぱのような濃い緑の瞳。屈託なく笑いかけてきた。
「いや、なんでもない」
「そうか?思い詰めた顔してたぞ」
彼の生家は鉄食器を作っていた。本人も学園を卒業後は弟子入りをして親の後を継ぐつもりでいる。
気さくな性格なのもあり、何かと頼りになっていた。
「なんでもない。まぁ、あるとすれば早く成果を上げたいくらい・・・かな」
「ほんと、お前はすごいよ。真面目で勤勉で。親父なんかお前の爪の垢煎じて飲めぇって言うぐらいだぜ」
そばかす顔をしわくちゃにして笑う。
僕の心は痛かった。
僕はトーマスに嘘をついている。
ここにいるのはサネイラ国の地理や軍などを調べるためにいるからだ。真面目なわけではない。勤勉なわけでもない。
「大袈裟だな」
僕は嘘の笑みを浮かべた。
仮の屋敷に帰ると、自室で手紙を書いていた。
『主。いつまでもあんな国にしがみつかなくていいじゃないの?』
ジニーが僕に言ってきた。
振り向くと、ソファーの上でごろごろ寝そべってクッキーを頬張っているジニーがいた。
褐色肌に黒髪黒目のとてつもない美女だ。耳や指にも宝石が輝き、エメラルドグリーンのチューブトップに細身のパンツ姿。健全な男性には胸をドギマギさせる姿だが、生憎僕には効かない。性格があまりよろしくないからだ。
『いつまでこんな事するの?』
呆れたような声。
『人が良すぎるのも悪いものね。嫌ならパーっと潰しちゃえばいいのに。主が願えばいつでも協力するわよ?』
「五月蝿い」
『失礼ね。もう!好きなあの子も連れて逃げればいいじゃない』
「ジニー!!」
『何よ。折角言ってあげてるのに。眉間に皺寄せて悩んでるとそのうちハゲるわよ』
口が減らない。
人が悩んでいても本当に遠慮なく言ってくる。
『ほんとバカじゃないの?あんたたち、まっすぐ過ぎ。あの子の精霊も過保護みたいだし、あーあ、つまんない』
赤い唇を尖らせ、クッキーを放り込んだ。
「黙ってくれ、ジニー」
『やだぁ。少しは自分の欲に忠実に生きてもいいはずよ。レイドリックみたいに。他人ばかり優先しても仕方ないじゃない』
「ジニー」
『そうしてくれないと、私が美味しくその魂が食べられないんだけどぉ』
僕は机の上にあったコップをジニーに向けて投げた。
コップはジニーをすり抜けソファーの背もたれにあたり反動で床に落ちて割れる。
『はいはい、今日は消えますよーだ』
ジニーはケタケタ笑いながら消えていった。
レイドリックに書いていた手紙をぐしゃぐしゃに握りしめた。
「エルファ・・・」
エルファに会いたい。たくさん話がしたい。サネイラ国の話をしたら、きっと君は目を輝かせながら楽しく聞いてくれる、よね・・・。
髪の色、瞳の色を変えサネライ国に滞在している貴族の縁戚を頼ってきた留学生として学園に入っていた。
サネイラ国は鉄が豊富に取れるため、鉄製の製品が多く見かける。
生活に便利な道具や装飾品に溢れているため、『魔術』文化があまり浸透していない。逆に職人たちの生産技術の高さが見て取れた。
学園もサブリナ国とは雰囲気が違い和気藹々としている。
会話の端々に専門用語が出てくるのには辟易してしまうが、それさえなければ楽しい。もし、叶うならエルファと通いたくなる。きっと彼女もここでなら、友達を作り笑い合いながら学園生活を謳歌できるのではとさえ思った。
「ザード、どうした?」
この国で最初にできたトーマスが聞いてくる。癖のある赤毛に夏の葉っぱのような濃い緑の瞳。屈託なく笑いかけてきた。
「いや、なんでもない」
「そうか?思い詰めた顔してたぞ」
彼の生家は鉄食器を作っていた。本人も学園を卒業後は弟子入りをして親の後を継ぐつもりでいる。
気さくな性格なのもあり、何かと頼りになっていた。
「なんでもない。まぁ、あるとすれば早く成果を上げたいくらい・・・かな」
「ほんと、お前はすごいよ。真面目で勤勉で。親父なんかお前の爪の垢煎じて飲めぇって言うぐらいだぜ」
そばかす顔をしわくちゃにして笑う。
僕の心は痛かった。
僕はトーマスに嘘をついている。
ここにいるのはサネイラ国の地理や軍などを調べるためにいるからだ。真面目なわけではない。勤勉なわけでもない。
「大袈裟だな」
僕は嘘の笑みを浮かべた。
仮の屋敷に帰ると、自室で手紙を書いていた。
『主。いつまでもあんな国にしがみつかなくていいじゃないの?』
ジニーが僕に言ってきた。
振り向くと、ソファーの上でごろごろ寝そべってクッキーを頬張っているジニーがいた。
褐色肌に黒髪黒目のとてつもない美女だ。耳や指にも宝石が輝き、エメラルドグリーンのチューブトップに細身のパンツ姿。健全な男性には胸をドギマギさせる姿だが、生憎僕には効かない。性格があまりよろしくないからだ。
『いつまでこんな事するの?』
呆れたような声。
『人が良すぎるのも悪いものね。嫌ならパーっと潰しちゃえばいいのに。主が願えばいつでも協力するわよ?』
「五月蝿い」
『失礼ね。もう!好きなあの子も連れて逃げればいいじゃない』
「ジニー!!」
『何よ。折角言ってあげてるのに。眉間に皺寄せて悩んでるとそのうちハゲるわよ』
口が減らない。
人が悩んでいても本当に遠慮なく言ってくる。
『ほんとバカじゃないの?あんたたち、まっすぐ過ぎ。あの子の精霊も過保護みたいだし、あーあ、つまんない』
赤い唇を尖らせ、クッキーを放り込んだ。
「黙ってくれ、ジニー」
『やだぁ。少しは自分の欲に忠実に生きてもいいはずよ。レイドリックみたいに。他人ばかり優先しても仕方ないじゃない』
「ジニー」
『そうしてくれないと、私が美味しくその魂が食べられないんだけどぉ』
僕は机の上にあったコップをジニーに向けて投げた。
コップはジニーをすり抜けソファーの背もたれにあたり反動で床に落ちて割れる。
『はいはい、今日は消えますよーだ』
ジニーはケタケタ笑いながら消えていった。
レイドリックに書いていた手紙をぐしゃぐしゃに握りしめた。
「エルファ・・・」
エルファに会いたい。たくさん話がしたい。サネイラ国の話をしたら、きっと君は目を輝かせながら楽しく聞いてくれる、よね・・・。
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