燐火の魔女〜あなたのために生きたわたし〜

彩華(あやはな)

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二章、学園時代

15歳ー3

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 その夜、わたしは寮を抜け出せるように黒いフード付きのマントをつけ、イフリード様が来るのを待っていた。

 『どうしても行くのか?』
 
 セイカが呟く。わたしはセイカの小さな頭を撫ぜながら頷いた。

 「自分の疑問を解決しないと・・・。セイカは精霊だもの。人間の理に従うことはできないじゃない。わたしの知らないことを知っていても口に出せないものね」

 セイカがレイに対して何かを知っているのはわかっていた。だが、言えないのだ。
 他者の秘密を勝手に言うことはできない。
 唯一できるのはアドバイスやヒントといったたぐいだけであることも。
 一般的にこれを『精霊の制約』と言われていた。
 精霊は主に使役されるものであって、自らは行動を起こさない。
 セイカがこうして鳥の姿を保ったまま、傍にいることの方が異例なのだ。
 
 『すまない』
 「セイカのせいじゃないわ」
 『・・・だが、どうするつもりだ。アウスラーも気にしていただろう』
 「わからない。でもカリナは護りたい。未来がでもどうなるのか想像できない・・・」

 富国強兵といわれても・・・。カリナを護るためにどこまでできるのか・・・いや、本当にそれを正しいと思っているのか自分でもわからなかった。
 アウスラー先生は眉をよせ不機嫌そうにしていた。
 わたしの考えは甘いのだろうか・・・。

 心内のモヤモヤと闘っていると、窓の外に大きな魔力を感じた。

 『奴がきた』
 
 セイカの呟きに頷き、窓を開けると赤い炎を纏うイフリート様が漂っていた。

 力を抑えていても感じる威圧感。この力に誰かが気づいてしまうかもしれない。

 「案内お願いします」

 わたしは窓の桟に足をかけると、勢いよく飛び出した。
 足に身体強化をかけ、木々を渡り屋根から屋根へと飛び移りながらイフリード様の後を追う。
 一切振り向かないのを見ると、わたしを気遣う気もないらしい。

 『エル、手伝うか?』
 「大丈夫。気配遮断だけお願い」
 
 イフリード様のいく先が王宮の方向だったので、セイカにはそれだけをお願いした。

 一般人とたいして変わらないわたしが無断で王宮に行ったのが、バレると大変だ。見張の衛兵たちからかい潜るようにして王宮の塀を飛び越える。

 王宮の隅にある庭園に温室の様な建物の前でイフリードは降りたかと思うと、すうっと消えてた。

 『エル』
 『大丈夫』

 消えた場所に降りてみると、そこにはレイドリック殿下とユーノ様がいた。

 「来たか」
 「お招きありがとうございます」

 レイドリック殿下の冷たい視線とユーノ様の軽蔑まじり視線。
 やはり、レイじゃない。疑問が確信へと変わる。

 「それで、真実とはなんでしょうか?」

 ニヤリというのか、不気味な笑いを貼り付ける。

 「君の思っている通りだよ」
 「・・・・・・」
 「僕は君の知っている僕じゃない」
 「・・・では、誰ですか?」
 「ふふっ、まさか、君が奴と知り合っていたとは思わなかったよ」

 口に手をやりくくくっ、と笑う。
 その笑みが不安を掻き立てた。

 「どういうことです?あなたは誰ですか?あの人は何者ですか?」
 「僕はレイドリックだ。あいつは僕であって僕ではない。僕の双子の弟、レイザードだ」
 「双子?」

 レイドリック殿下に双子の兄弟がいるなんて聞いたことはなかった。
 どう反応すればいいのかわからずにいた。

 「母である王妃の出身はバンドリア国。信仰心が高いからね」

 そう言われて、以前習った知識が頭を巡る。信仰心の高さゆえ、双子を忌み嫌うとあったのを思い出し合点がいく。
 
 違う環境になったからといって、自分の信じるものがすぐに変わるものではない。王妃様もそうなのだろう。
 
 この国では探せばいくらでも双子はいるが、王妃様自身は受け入れることができなかったのだ。
 
 それにしても・・・だ。

 『くだらない』

 セイカの声に賛同した。
 





 
 
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