燐火の魔女〜あなたのために生きたわたし〜

彩華(あやはな)

文字の大きさ
上 下
26 / 37
二章、学園時代

15歳ー3

しおりを挟む
 その夜、わたしは寮を抜け出せるように黒いフード付きのマントをつけ、イフリード様が来るのを待っていた。

 『どうしても行くのか?』
 
 セイカが呟く。わたしはセイカの小さな頭を撫ぜながら頷いた。

 「自分の疑問を解決しないと・・・。セイカは精霊だもの。人間の理に従うことはできないじゃない。わたしの知らないことを知っていても口に出せないものね」

 セイカがレイに対して何かを知っているのはわかっていた。だが、言えないのだ。
 他者の秘密を勝手に言うことはできない。
 唯一できるのはアドバイスやヒントといったたぐいだけであることも。
 一般的にこれを『精霊の制約』と言われていた。
 精霊は主に使役されるものであって、自らは行動を起こさない。
 セイカがこうして鳥の姿を保ったまま、傍にいることの方が異例なのだ。
 
 『すまない』
 「セイカのせいじゃないわ」
 『・・・だが、どうするつもりだ。アウスラーも気にしていただろう』
 「わからない。でもカリナは護りたい。未来がでもどうなるのか想像できない・・・」

 富国強兵といわれても・・・。カリナを護るためにどこまでできるのか・・・いや、本当にそれを正しいと思っているのか自分でもわからなかった。
 アウスラー先生は眉をよせ不機嫌そうにしていた。
 わたしの考えは甘いのだろうか・・・。

 心内のモヤモヤと闘っていると、窓の外に大きな魔力を感じた。

 『奴がきた』
 
 セイカの呟きに頷き、窓を開けると赤い炎を纏うイフリート様が漂っていた。

 力を抑えていても感じる威圧感。この力に誰かが気づいてしまうかもしれない。

 「案内お願いします」

 わたしは窓の桟に足をかけると、勢いよく飛び出した。
 足に身体強化をかけ、木々を渡り屋根から屋根へと飛び移りながらイフリード様の後を追う。
 一切振り向かないのを見ると、わたしを気遣う気もないらしい。

 『エル、手伝うか?』
 「大丈夫。気配遮断だけお願い」
 
 イフリード様のいく先が王宮の方向だったので、セイカにはそれだけをお願いした。

 一般人とたいして変わらないわたしが無断で王宮に行ったのが、バレると大変だ。見張の衛兵たちからかい潜るようにして王宮の塀を飛び越える。

 王宮の隅にある庭園に温室の様な建物の前でイフリードは降りたかと思うと、すうっと消えてた。

 『エル』
 『大丈夫』

 消えた場所に降りてみると、そこにはレイドリック殿下とユーノ様がいた。

 「来たか」
 「お招きありがとうございます」

 レイドリック殿下の冷たい視線とユーノ様の軽蔑まじり視線。
 やはり、レイじゃない。疑問が確信へと変わる。

 「それで、真実とはなんでしょうか?」

 ニヤリというのか、不気味な笑いを貼り付ける。

 「君の思っている通りだよ」
 「・・・・・・」
 「僕は君の知っている僕じゃない」
 「・・・では、誰ですか?」
 「ふふっ、まさか、君が奴と知り合っていたとは思わなかったよ」

 口に手をやりくくくっ、と笑う。
 その笑みが不安を掻き立てた。

 「どういうことです?あなたは誰ですか?あの人は何者ですか?」
 「僕はレイドリックだ。あいつは僕であって僕ではない。僕の双子の弟、レイザードだ」
 「双子?」

 レイドリック殿下に双子の兄弟がいるなんて聞いたことはなかった。
 どう反応すればいいのかわからずにいた。

 「母である王妃の出身はバンドリア国。信仰心が高いからね」

 そう言われて、以前習った知識が頭を巡る。信仰心の高さゆえ、双子を忌み嫌うとあったのを思い出し合点がいく。
 
 違う環境になったからといって、自分の信じるものがすぐに変わるものではない。王妃様もそうなのだろう。
 
 この国では探せばいくらでも双子はいるが、王妃様自身は受け入れることができなかったのだ。
 
 それにしても・・・だ。

 『くだらない』

 セイカの声に賛同した。
 





 
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...