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出会いからラブラブ編

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ティオが仕事を再開した。初めて会ったときの鎧姿と双剣を装備する姿を久しぶりにみた。髪もポニーテールにしていて家でのんびりしている姿とは全然違って凛々しく見える。

「仕事モードのティオは格好いいな」

俺の言葉にティオは少しだけ驚いたような顔をして微笑んだ。

「ありがとうございます。惚れてくれますか?」

「それはまだ……ちょっと早いっていうか……」

「つれないですね……」

ティオは肩をすくめた。でもこんなやりとりも楽しいのか口元は微笑んでいた。

「ところで今日は何をするんだ?前に話してた育成の仕事か?」

「いえ、しばらくその予定はありません。体が鈍ってきたので感を取り戻すためにソロでモンスターを狩ろうと思っています」

「ティオの仕事は冒険者の育成なのに良いのか?」

「ええ。今の私はギスケが傍にいてくれてとても満たされているので、誰かに頼ってもらうための仕事をしなくても大丈夫になりましたから。ギスケが望むなら私はいつでも貴方のために戦う騎士であり続けるつもりです」

「ティオ……」

ティオはいつものように優しく笑ってくれたけどそれが俺にとっては複雑だった。ティオが俺を想う言葉を伝えてくれるたびに胸が苦しくなってしまう。この世界に来てからずっとティオには衣食住の全てを助けられっぱなしだった。香水なのかほんのりと甘い匂いをさせながら俺のことを押し倒そうとしたりするけど、俺が待ってくれって言うと待ってくれる。やっぱり根っこのところはすごく優しい人だと思った。

「ティオ、あのさ……俺はお前に色々なことを助けられて、いっぱい貰ってるのに何も返せてないよな。だからせめっ」

「私はギスケとこうして一緒に居られるだけで幸せですよ」

俺の唇にティオが人差し指を押し付けて笑った。ティオを喜ばすためにせめて体だけでもと言おうとしたら言わせてもらえなかった。

「でも」

「ギスケ、私は貴方のことが大好きです。愛しています。それに待っていると言いましたよね?いつか貴方が私の全てを受け止めてくれる日が来るのを楽しみにしていますよ」

ティオはそう言って俺にキスをした。

「だから今はこのままで充分ですよ。それにギスケが私の愛を受け止める『覚悟』をしてくれたら、貴方から私にして欲しいことがあるんです」

「なんだ?」

「ギスケから私に口づけをしてほしいんです」

ティオは照れたように頬を染めていた。綺麗な人が恋をする可愛い表情を見たら俺まで恥ずかしくなってきた。

「わ、分かった。その時は俺からするよ」

「約束ですよ」

ティオは嬉しそうに俺の手を掴んで自分の口に押し付けた。柔らかい感触が手に伝わる。

「な、なにしてんだよ!」

「仕事に行く間、寂しくならないようにギスケの手のぬくもりを覚えておくんです」

「そっか……。じゃあ、いってらっしゃい」

「はい、いってきます」

恋愛レベルさえ1の俺は上手く言えないまま仕事に行くティオを見送った。手にはティオの唇の感触が残っていて、なんだかドキドキした。

「覚悟を決める……か」

俺は一人になると呟いた。ティオのことは好きだ。それにこのまま甘やかされたらニート生活万歳って俺は完全に落ちそうだ。でもティオが寄せてくれる愛情に胡座をかいていいのか?それはやっぱり駄目だろ。

「だけどもし俺がティオのことを受け入れる覚悟を決めたらどうなるんだ?」

ティオの全部を受け入れて恋人になるってことだろ?俺の頭の中に裸のティオが浮かんできて、慌てて頭を振った。

「な、何を考えてるんだよ俺は!」

押し倒されそうになったり、キスは何度もしているけどティオの裸は今まで見たことがない。どんな感じなんだろう?俺が初めてでティオにリードしてもらうから挿れられる方になるのか?でもいろいろ尽くしてくれる美人なティオに下手な俺でも受け入れて欲しい。そんなことを考えると変な気分になってくる。

「どっちにも興味あるって、俺って変態なのか?」

ティオが帰ってきた時に普通の顔をして話せる自信がない。俺は悶々としてきて気を紛らわすために家の掃除をすることにした。

「あれ?これって……」

掃除中にティオの机の上に小さなメモ用紙があったのを見つけた。

「なになに……、『ギスケへ、今日の夜はシチューが良いです。早く帰ってきますからね。愛しています。ティオより』……か」

この家に来てから初めてティオに食べたい料理をリクエストされた。もしかしたらちゃんと頼み事をされたのって初めてかもしれない。

「飯の希望くらい直接言ってくれたらいいのに」

ティオのメモを見ていると俺の顔がにやけてくる。このくらいの願いなら俺でも叶えられるから張り切って買い物に出かけた。

******

その日の晩、本当はホワイトシチューなのにちょっと焦げて茶色っぽくなったシチューを出すとティオは目を輝かせていた。

「ありがとうございます。ずっと食べたいと思っていたんです。私が食べたいものをギスケが作ってくれる。これが以心伝心なのでしょうね」

「ティオの部屋の机にリクエストメモがあったから作ったんだ。ティオはけっこう大袈裟だな」

「あっ!あれは違うんです!いえ、ギスケに書こうと思って書いたものではあるんですけど上手く書けなくて処理しようとしていたもので……」

ティオの顔が真っ赤になって長い耳まで赤く染まっている。シチューをリクエストするのに上手いも下手もないと思うのだが、ティオには俺が分からないこだわりがあるらしい。

「何が食べたいとか言ってくれたら、俺も何を作るか悩まないで済むし遠慮するなよ。ティオが喜んでくれるのは嬉しいし」

「ギスケ」

ティオが赤い顔のまま俺の名前を呟くのと同時にいきなり花のような甘い匂いが漂ってきた。ティオの目が潤んでいて、いつも以上に色っぽく見えた。

「ティオッ、ほら、飯にしよう。冷めたら美味しくなくなるからな。いただきます」

「そうですね。ギスケが作ってくれた料理ですものね。冷めないうちにいただきましょう」

二人で晩飯を食べることはいつもと同じはずだ。なのに俺は食事中にも関わらずまたグラグラと心が揺れてティオとなら一線を越えても良いんじゃないかと考えてしまう。甘い匂いが薄くなるにつれて俺の気持ちも落ちついてくる。

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさま。じゃあ、皿洗うからな」

俺が立ち上がろうとするとティオに呼び止められた。

「シチューのお礼に私が食器を洗いますよ。ゆっくりしていてくださいね」

そう言って立ち上がると俺とティオが食べ終わった食器を重ねて台所に持って行った。俺の隣を横切るときにあの甘くて花みたいな匂いがティオから漂ってきた。挨拶みたいにキスをしていたのにその日を境にティオからキスをされることがなくなった。


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