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3・偽りの学園生活
3-35・嫌な予感(ユーファ視点)
しおりを挟む私の女神は優しすぎた。
キゾワリの第十三王女の行動は、どう考えても目に余った。
接する度に私なりに厳しい態度をとっているつもりなのだが、全く彼女には伝わっていない。
否、あれはわかっていてわかっていないふりをしているのだろう。全く小賢しいばかりである。
優しいティールはいつも決まって彼女を庇う。曰く、
「彼女はユーファ殿下をお慕いしているだけでしょう。それなのにあまり邪険にしてはお気の毒です」
だとまで私に訴えかけるのだ。
心が清らかすぎるのも考え物だと私はうっかり思ってしまった。
その上、あれでも彼女は第十三王女だ、国の名を背負っているのだから、あまりに目に余る行動などは国に苦情を入れるべきだという私の意見にさえ、そこまで大事にする必要はないと止めた。
とは言え、私とて国を背負っている身。いくら私の女神の尊い見解だとしても、諾々と従うわけにはいかず、ひとまずはと両親に訴えることにした。
「母上。あの第十三王女の件は、勿論、キゾワリに伝えて下さっているのですよね?」
当然だろうと確認すると、ここファルエスタの国王である母は当たり前だとこくりと頷く。
「彼女の言動はこちらにも伝わってきている。取り分けティール殿への態度は目に余るとも聞いているよ。そんなもの、キゾワリにも伝えていないわけがないだろう」
やはり第十三王女の行動は母の耳にも入っていたらしい。
嫌悪を滲ませてそう話す母に、どうやら母も私と同じ意見であるらしいと知る。
こういった場合、父は何も言わない。静かに母へと寄り添って、隣から母へと愛し気な視線を寄越すばかりだ。
もっとも、もし万が一父が動くようなことがあれば、おそらく随分と大ごとになる可能性が高いので、これはこれでいいのだろうと私は思っている。
「よかった。でしたら直に、彼女の行動も改まることでしょう」
ほっと息を吐いた私に、しかし母は苦い顔のまま、思いっきり顔をしかめていて。
「母上? どうかなさったのですか?」
怪訝に思って問いかけると、母は苦り切った顔で溜め息を吐いた。
「キゾワリには、伝えてあるんだ。どうにかして欲しいと苦情を入れている。こちらとしては、彼の国との縁組などは全く考えてはいないからね。それも含めて、明言した。にもかかわらず、先方からはなしのつぶてだ。その上、こちらへの返答もまともに返さないまま、追加で使者を寄越すとまで言ってきた」
彼女の件での謝罪など一切ないにもかかわらずだ!
母の声は怒りに満ちていた。
普段どちらかと言わずとも温厚な母がこうも明確に苛立ちをあらわにするだなんて。珍しい姿も相俟って、私は思わず面食らう。
「は、母上?」
戸惑う私に母は努めて気持ちを静めたのだろう、重々しくこう告げた。
「あの国は何をしてくるのかわからない。お前も充分に気を付けなさい」
母の言葉に立ち上ったのは予感だ。嫌な気配。だからこそ私はただ一つ、ごくり、唾を飲み込んで。しっかりと、頷くことしかできなかった。
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