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3・偽りの学園生活
3-36・理不尽な怒り
しおりを挟む「さて、ティアリィ。僕に何か言うことはあるかな?」
夜、王宮に戻ってきてすぐ、この日はコルティの寝かしつけもままならず、ごく短時間の触れ合いだけで、攫われるように寝室へと連れ込まれた。その上、満面の笑みを浮かべそんなことを言うミスティを前に、ティアリィは膨れた顔を隠さない。
何か言うことは? などと問われても、心当たりなど全くない。
ミスティはいったい何を言っているのだろう、まさか留学をすぐさま取りやめろだとかそういう話だろうか。
それは出来ないし、不承不承ながらも、もうしばらくの許可は得たと思っていたのだけれど。
笑顔のまましばらくティアリィを見つめていたミスティは、ややあって深く溜め息を吐いた。
「その顔は全く何も心当たりなどないという顔だね」
そのものずばり、心境を言い当てられたのでティアリィは素直に頷く。
本当に全く心当たりがなかった。
そうしたらミスティはぎゅっと苦く顔を歪める。
「ティアリィ。君はいい加減に自覚をしてくれないかな? 君は容易く軽んじられていいような存在ではないと。ましてや、キゾワリなんて言う小国などに」
苛立ちも露わに吐き捨てるミスティの口にした国名に、ティアリィはようやく一人の少女へと思い至る。
そして驚いた。
「え? あ! まさかリアラクタ嬢のことを言ってるんです?」
「そうだよ、それ以外にいないだろう?!」
念の為と、件の少女の名を口に乗せると、ティアリィがその名を呼ぶことさえ腹立たしいと言わんばかりに、ミスティが普段の穏やかさをかなぐり捨てたような態度で声を荒げる。
ティアリィは思わずびくと肩を竦めた。
どうやらティアリィが件の少女に頻繁に取られている態度こそが、ミスティにはどうにも腹に据えかねるらしいと、何とかティアリィはあたりをつける。
とは言え、そんな風に怒りをあらわにされても、ティアリィにはまったく理解できないままだった。
それは確かに、彼女の態度は良くはないと、そんなことティアリィだって思っている。
だが、これほどに怒ることだろうかと首を傾げる気持ちでいることも本当で。
そんなティアリィの心情が、余すことなく伝わってしまったのだろう、ミスティがますます苛立ちをあらわにする。
「だから、なんで君は理解しないんだい?! 前々から思っていたのだけれどもね、君は周囲に寛容でありすぎるんだっ! 自分を軽んじすぎる」
珍しくも起こったような口調で詰られて、ティアリィは余計に気分を害することしかできなかった。
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