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3・偽りの学園生活

3-37・言葉で伝わらないのなら

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 ティアリィには自分を軽んじているつもりなど全くない。
 それこそ、今ミスティが言ったように、キゾワリなど取るに足らない小国なのだ。
 そのような国にどう言われたところで、いったい我が国にどれほどの影響があるというのだろう。
 どう控えめに考えても、ナウラティスには傷など一つもつかず、逆にキゾワリの方こそ、他国からの信用を無くすのではないかとしか思えなかった。
 それはリアラクタ嬢がティアリィに取っている態度にしても同じことだ。
 気にするようなものだと思っていないから気にしていないだけ。
 軽んじられているとミスティは言うけれど、彼女が軽んじているのはティール・ジルサだ。実際には実在しない人物。
 ジルサ公爵家の嫡出子、ナウラティス帝国皇后の実弟を名乗っている以上、そういう意味では確かに、軽んじていいはずもないけれど、それにしたってあのような子供の戯言、いちいち真に受けて相手にする方がどうかしている。
 だからティアリィは素直にそのままを、ミスティに向かって口に乗せた。

「軽んじていると言いますけれど、あんな子供の戯言、真に受けて相手にする方が大人げないというものでしょう?」

 何処にも実のない言葉の、何処がティアリィを傷つけるというのだろう。
 不機嫌も露わなティアリィに、ミスティはピクリと顔をひきつらせた。

「君は本当に相変わらず……何もわかっていないままなんだね」

 呟く声には怒りが満ち、苛立っているのがあまりにも明白だった。
 だが、ティアリィはミスティの苛立ちが、やはりわからないまま。ややあってミスティがはぁと深く息を吐く。

「いいよ。これ以上話しても、きっと君はわからないままだ。なら、言葉になんて意味がない。そうだろう?」

 リアラクタ嬢の言葉さえ、戯言だと切って捨てるのだ。ミスティが把握しているだけでも、随分とひどいことも言われているはずなのに。
 少なくともミスティは、今夜はこれ以上、言葉を重ねる気分にはなれなかった。
 こんな言い争いをしたいわけではない、確かにミスティが初めから苛立っていたせいで、ティアリィはきっと、ますます聞く耳を持たなくなっている所はあると思う。
 それをいつも通りの口調で昏々と説明し、ティアリィの理解を得る努力をする余力が、今夜のミスティには不足していたのである。

「? ミスティ?」

 嫌な予感を感じてだろうか、怪訝そうに首を傾げたティアリィにミスティは笑った。そしてゆっくりと口を開いていく。

「……言葉で伝わらないのなら、伝える方法はただ一つだよ」

 つまりは、この後の行動で。
 それは逃がさないとそう、表情だけで語るかのような笑みだった。
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