EVでも日本車はガラパゴス化?日産「サクラ」で見えた課題、欧州の日本車潰しとは

 ただ、ガソリンタンク容量が少ないので、1回あたりの給油量自体が少なく、ガソリン代がそれほどかからないので錯覚してしまうという話も聞いている。一方で、軽自動車は日常生活で乗る機会が多いので、登録乗用車に比べて給油頻度も多くなることに気がつき、軽自動車から登録乗用車に乗り替える人もいるようだ。そういった人には、“給油に行く面倒がなくなった”というアピールは効果的といえるだろう。

 ディーラーでセールスマンとBEVについて話をしている中、「実は集合住宅に住んでいるのですが……」と伝えると、けっこうな頻度で話がほぼ終了してしまう。現状では、既存の集合住宅に新たに充電設備を設置するのは大変困難となっている。まったく不可能というわけではなく、共用スペースに設置し、維持管理費用を自治会費で賄うのが一般的なようだが、BEVオーナーが少なく受益者が限られるので公平性がないという、物理的ではない理由が障壁となることも大きいようだ。

 ただし、「それでも設置するマンションはありますよ。自治会役員のみなさんの中でBEVへの理解が深い人がいれば、話は進みやすいようです」といった話も聞いたことがある。

 つまり、集合住宅に住みBEVを所有すると、多くのケースで“給油する面倒がなくなる”というBEVのメリットは消滅する。しかも、充電に出かけるのだから、どうしても急速充電に頼りがちになるので、車両へのダメージも気になってしまう。ガソリンスタンドも減少傾向で探すのに苦労することもあるが、販売現場では「カーナビで周辺の充電施設のご案内もしていますし、所有していく中で“どこで充電するか”などは慣れてきます」といった説明を受けるが、初めてBEVを買おうかなと考えた時には、やはり充電に対する不安を覚えてしまう。

 販売現場では、すでにBEVに乗っているお客からは「戸建て住宅で自宅敷地内に充電施設を持ち、生活圏内の移動にほぼ特化した利用形態以外はBEVだけではまだまだきつい」といった話を聞くという。

“日本のBEVは軽自動車”の弊害

 かねがね、筆者やその周囲では“日本のBEV普及は地方から”と考える人が多い。広い敷地を持つ自己所有の戸建て住宅に住んでいるので、自宅敷地内に充電設備設置が可能。そして、ガソリンスタンドの減少は地方部でより深刻となっているが、電気については奥深い山間部の集落でも十分供給されている。さらに、高齢化が進む中、自動運転バスなどで公共交通機関の確保を図るという動きもあるようだが、生活圏内での移動にほぼ限られるものの、クルマを手放せないといった生活環境が、都市部よりBEV普及を加速させるのではないかというのである。

 サクラはある意味、日本の市場環境に適したBEVといえる。そして、BEV後進国の日本において多くの消費者にBEVを注目させるきっかけを作った功績も大きく、そこは大いに評価されるべきだと考える。今後は軽自動車の老舗であるダイハツとスズキが共同開発した軽自動車規格のBEVもデビュー予定と聞くので、“日本型BEVは軽自動車規格”という流れが加速しそうだ。

 しかし、残念なことに、軽自動車規格は日本市場限定のまさに“ガラパゴス規格”であり、そのまま世界市場で展開することは、先進国を中心にほぼできないといえる。新興国となるASEAN地域のNCAP(新車アセスメントプログラム)でも基準は年々厳しいものとなり、関係者からは「日本の軽自動車が衝突安全基準をクリアするのは難しい」という話を聞いたことがある。つまり、“日本のBEVは軽自動車”の動きが過度になると、その時点でBEVでも日本車はガラパゴス化してしまう恐れがあるのだ。