今回は、「自分の機嫌の取り方」についてお話ししたいと思います。
自分で自分の機嫌を取ることができること。それも、話しやすい人になるうえで、一つの重要な条件だといえるかもしれません。
多少のことには動じず、たいていいつも機嫌が良さそうな人と、会話中にちょっとしたことで不機嫌になったり、感情的になったりしやすい人。
どちらのほうが話しやすいと思われるかといえば、やはり前者ではないでしょうか。
悪気はまったくないのに、つい余計なことを言ってしまうこと、知らずに相手の気に障るようなことを言ってしまうことは誰にでもあります。
そんなとき、いきなり激怒されたり、あからさまにピリピリした空気を醸し出されたりすると、人はどうしても「また怒らせてしまったらどうしよう」と緊張し、「この人、ちょっと話しづらい」と思ってしまいます。
しかし、うっかり、あるいは知らずに失礼なことを言ってしまっても、さらっと流してもらえたり、笑い飛ばしてもらえたり、「今の言葉、人によっては気に障るかもしれないから、今後は気をつけたほうがいいよ」などと冷静に注意してもらえたりすれば、「この人は話しやすい人だ」と感じ、安心してのびのびと会話をすることができるでしょう。
ときには怒ったり、自分の不快感をしっかりと相手に伝えたりすることも必要ですが、話しやすい人だと思われたいのであれば、怒ったり不機嫌になったりする回数をできるだけ抑えること、感情的になりすぎず、怒りや不快感を冷静に伝えることは、とても大事です。
もちろん、人それぞれ生まれもった性格は異なります。怒りの沸点が高めな人もいれば、低めな人もいるでしょう。しかし、もともとの性格がどうであれ、経験や学習、テクニックなどにより、誰でもある程度は自分の機嫌を取ることができるようになるはずです。
何も、一人のときにまで自分の機嫌を取る必要はありません。人前できちんと自分の機嫌が取れればいいのです。
では、どうすれば自分の機嫌を取ることができるのか。ちょっとしたことで腹を立てたりしなくてすみようになるのか。
誰にでも簡単にできるものから、やや意識改革が必要なものまで、いくつかの方法を考えてみましょう。
誰にでもできる、自分の機嫌の取り方として、まず考えられるのは、深呼吸をすることです。
この連載の第5回で、心身の緊張をほぐしたいときや仕事のパフォーマンスを高めたいときに、深呼吸をするといいとお伝えしましたが、深呼吸は怒りや不快感を鎮めたいときにも有効です。
誰かと会話をしていて、「相手に失礼なことを言われた」「自分が傷つけられた」などと脳が判断すると、怒りが生まれ、感情を司る脳の扁桃体という部位の働きが活発化すると同時に、交感神経が優位になって体が興奮状態になり、呼吸が浅くなったり、筋肉がこわばったり、血圧が上がったりします。
扁桃体の働きが活発化すると、「考える」「判断する」「感情をコントロールする」といった役割を担う、脳の前頭前野という部分の働きが低下し、体が興奮状態になると、心も余裕をなくし、さらに興奮状態になります。それによってますます怒りが増幅するという悪循環に陥ってしまうのです。
こうした悪循環を意識的に止めるうえで即効性が高いのが、深呼吸によって体の興奮状態を鎮めることです。
深くゆっくりした呼吸を行うと、脳は「今、自分は興奮状態ではなく、リラックスしている状態だ」と判断します。すると、副交感神経が優位になり、脳内に「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンが分泌されます。セロトニンには、扁桃体の働きを抑え、ストレスを緩和し、心を安定させ、幸福感をもたらす働きがあるため、怒りや不快感を鎮めることができるのです。
私自身、誰かの言動に腹を立て、つい相手を攻撃したくなったときには、とりあえず深呼吸をするようにしています。おかげで気持ちが落ち着いたことが何度もありました。
会話の最中に突然大げさに深呼吸をすると、それはそれでかえって不自然になってしまいますが、相手に気づかれない程度に、少し深く、ゆっくりと呼吸をするよう心がけるだけで、かなり気持ちが落ち着くはずです。
みなさんもぜひ試してみてください。