「過去を振り返る」ことだけを抽出すると、日本半導体産業の世界シェアは1980年中旬に約50%でピークアウトし、その後、坂を転がり落ちるように凋落した(図5)。その間、シェアの低下を止めようと、主として経産省が主導して国家プロジェクトやコンソーシアムを山のように立ち上げ、エルピーダメモリやルネサスエレクトロニクスなどの合弁会社を設立した。
しかし、やっても、やっても、シェアの低下を食い止めることはできず、2010年には20%となり、2020年には10%を切ってしまった。つまり、経産省が主導した半導体政策は、すべて失敗に終わったわけだ。この結果を基に、筆者は「歴史的に、経産省が出てきた時点でアウト」と断じた(詳細は拙著記事)。
さて、今年2021年、経産省が主導してTSMCを日本国内に誘致しようとする動きが2つある。これまでの歴史通りならば、悲観的な結果に終わることになる。部外者の筆者としては、そうならないことを願うしかない。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)
追記)TSMCは7月15日行った決算発表会で、日本の新工場建設について具体的な質問を受け、現時点でいかなることも排除しないと説明し、「当社は日本でウエハー工場に関するデューデリジェンスの過程にある」と述べたことが報道された(7月15日、Bloomberg)。この報道から、5月26日の日刊工業新聞の記事がまったく根も葉もないものではないことはわかった。しかし、それでも筆者は、TSMCがデューデリジェンスを進めた結果、「日本の新工場に関与しない」という結論を導くと考えている。その理由は、本文で述べた通り、日本の新工場に関係する合理的根拠が見当たらないからである。
●湯之上隆/微細加工研究所所長
1961年生まれ。静岡県出身。1987年に京大原子核工学修士課程を卒業後、日立製作所、エルピーダメモリ、半導体先端テクノロジーズにて16年半、半導体の微細加工技術開発に従事。日立を退職後、長岡技術科学大学客員教授を兼任しながら同志社大学の専任フェローとして、日本半導体産業が凋落した原因について研究した。現在は、微細加工研究所の所長として、コンサルタントおよび新聞・雑誌記事の執筆を行っている。工学博士。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『電機半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北』(文春新書)。
・公式HPは http://yunogami.net/