図2に、TSMCの地域別売上高比率の推移を示す。2020年9月15日以降、米国の制裁により、TSMCは中国ファーウェイへの半導体の出荷を停止した。その結果、TSMCにおける中国の売上高比率は大きく減少した。
その一方で、アップル、クアルコム、ブロードコム、AMDなど、ビッグカスタマーが多数存在する米国の売上高比率が70%前後に上昇している。その米国にTSMCが誘致され、アリゾナ州にロジック半導体のファンドリーを建設することになったが、「建設費が6倍高く、人件費が3割高い」と苦言を呈しているという(2月24日付ニュースイッチ記事)。
では、日本はどうだろう。TSMCの売上高に占める日本の割合は、たかだか4%しかない。この4%のなかに、ソニーのCMOSセンサーに張り合わせるロジック半導体の全数、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダなどの自動車メーカー向けの40nm以降の車載半導体のすべてが含まれている。
このように売上高比率がたった4%しかない日本に、TSMCが数百人もの技術者を派遣して1兆円規模のギガファブを稼働させる合理的理由は存在しない。したがって筆者は、TSMCとソニーとの合弁による新工場には現実性がないと考えている。では、なぜ日刊工業新聞は確信に満ちた(ように見える)記事を報道したのだろうか。
経産省は6月4日に「半導体・デジタル産業戦略」を取りまとめたことを発表した。その半導体産業の戦略の第1番目に「先端半導体製造技術の共同開発と生産能力確保」がある。上記サイトには4つの添付ファイルがあるが、2つ目の「半導体・デジタル産業戦略について(要点)」には、以下の記載がある。
<3.半導体分野の目指すべき方向性
(1)国家として必要となる半導体生産・供給能力の確保
・先端ロジック半導体は、社会のあらゆる電子システムを制御し、データ駆動型経済を支える基盤デバイスであり、いわば「産業の脳」として重要であるが、我が国のミッシングピースの一つ。経済安全保障上の戦略的自律性の強化を図るため、海外ファウンドリーとの合弁工場の設立等を通じ、国内製造基盤を確保する。さらに次世代製造技術の国産化を進める>
さらに、3つ目の添付ファイル「半導体・デジタル産業戦略(概要)」の6頁には、「海外の先端ファウンドリとの共同開発を推進する。さらに、先端ロジック半導体の量産化に向けたファウンドリの国内立地を図る」と書かれている(図3)。
加えて、4つ目の添付ファイル「半導体戦略(概略)」の38頁には、「我が国が失った先端半導体生産能力(40nm未満)について、海外ファウンドリの協力を得て、新たに工場を設立する」と書かれている(図4)。
以上からわかることは、経産省が海外ファンドリーを誘致して、日本国内に40nm以降のプロセスによる先端ロジック半導体工場を設立したいという構想を持っているということである。それがTSMCとソニーとの合弁による1兆円規模の新工場ということであり、どのような経緯かはわからないが、その内容を日刊工業新聞が記事に書いたということではないか。
しかし、新工場に導入する製造装置の予算(最低5000億円)と数百人の技術者(オペレーションを含めると1000人規模)を確保できなければ、経産省の「絵に描いた餅」にすぎないと筆者は考える。
筆者は6月1日、衆議院の「科学技術・イノベーション推進特別委員会」に、半導体の専門家として参考人招致され、「日本半導体産業の過去を振り返り、反省・分析し、未来の政策を考える」というテーマについて、15分の意見陳述を行った(その様子がYouTubeにアップされています)。