アメリカの新たな大統領が選ばれる11月3日が間近に迫ってきた。現職のトランプ陣営も、世論調査ではリードを保っていると見られるバイデン陣営もあらゆる手段に訴え、票の上乗せに余念がない。しかし、当日に結果が判明する可能性は少ない。なぜなら、事前投票者の数がかなり多いため、11月3日中に集票作業が終わりそうにないからだ。しかも、両陣営ともすんなりとは結果を認めない雰囲気が濃厚となっている。
トランプ大統領に至っては「集票作業の過程で操作が行われている可能性が高いため、その確認には数週間から数カ月の時間がかかる」と、今から票の数え直しを示唆する有様である。しかも、自らの支持者に対して、「全米各地の投票所に銃を持って出かけ、不正が行なわれていないか監視するように」と呼びかけている。まさにアメリカ史上かつてないほど緊張が高まっているのである。
問題はどちらに軍配が上がっても、負けたとされる側が黙っていないと思われることである。黒人差別反対運動が各地で暴徒化しているが、選挙結果に納得できないと主張し、暴力に訴える過激な動きはすでに顕在化している。そのため、ニューヨークでもシカゴでも、多くの住民が難を逃れようと安全な地方や海外に移動を始めている模様だ。
ニューヨークのトランプタワーは焼き討ちの標的になることが懸念されている。民主主義の象徴であるはずの直接投票で自分たちの大統領を選ぶはずが、その結果に満足できないなら、腹いせに暴力や破壊行為に訴えるというのでは、とても民主的な国家とはいえない。なぜそんな状況に陥ってしまったのだろうか。
世界が注目した第1回のトランプ対バイデン両大統領候補者によるテレビ討論は「アメリカ史上最悪」とまで揶揄された。まさにそのハチャメチャぶりにはアメリカの有権者のみならず、アメリカの行方に関心を寄せる世界の人々が驚いた。「民主主義の旗手」や「唯一の超大国」といったお飾りのメッキが剥げた瞬間といっても過言ではないだろう。
自らの主張や政策を内外に訴える最高の場であるはずの「大統領候補者による直接対決」は「ウソと罵り合いの場」でしかなかった。ディベート(討論)の基本ルールである「発言時間の順守」や「指定されたテーマについて議論を深める」ことなど、一切が無視されていた。
特にひどかったのはトランプ大統領である。バイデン候補が与えられた時間内で発言しているにもかかわらず、何と73回も横やりを入れ、議論を混ぜ返したからだ。司会者はFOXニュースのベテラン記者で、どちらかといえば共和党寄りであったはずだが、トランプ大統領の傍若無人なルール無視の発言には、さすがに何度も注意を促したほどである。
しかし、そんなことは織り込み済みのトランプ大統領。かつて人気テレビ番組で司会を務め、「You are fired ! (お前は首だ!)」の決め台詞で一世を風靡した経験の持ち主である。視聴者の気を引く手練手管はお手の物というわけだ。
真面目な姿勢が目立ったバイデン候補に対して、「ワシントンの政界に47年間もいて、何もできなかっただろう」「お前の息子は薬物乱用で軍隊を除隊させられたんじゃなかったのか」「第一お前は大学を卒業した時の成績はビリだったらしいな」「中国からお金をもらっているだろう」と、言いたい放題。
さすがのバイデン前副大統領も堪忍袋の緒が切れたようで、「所得税を750ドルしか払っていないウソつき男」「コロナウィルスは自然になくなるのでマスクは要らない、と言いつのり、専門家の意見を聞こうとしなかったため、アメリカは世界最悪の感染国になってしまった。その責任を認めようとしないで、ワクチンはもうじきできると、またぞろ平気でウソをつく」と反論。