『そのビジネス、経済学でスケールできます。』(ジョン・A・リスト 著、高遠裕子 訳、東洋経済新報社)の著者は、シカゴ大学経済学部ケネス・C・グリフィン特別功労教授。大統領経済諮問委員会(CEA)でシニア・エコノミストを務めただけでなく、ウーバーのチーフ・エコノミストを務めた経験も持つ。
本書においてはそうした経験や実績に基づき、ビジネスと政策決定のための経済学実装の知恵を公開しているのである。
注目すべきは、重要視されるべき目標として「スケール」を挙げている点だ。
著者は自身の研究や政策立案者との共同作業を通じ、「追求すべき価値のあるアイデアは、人々の生活に多大な影響を与えうるアイデアだけだ」と確信したという。1つのアイデアを広範な影響力をもつものに変えるには、アイデアをスケールアップしなければならないのだとも。
したがって、重要なアイデアや事業をスケールアップする必要性は、ますます高まっているようだ。しかしそこには、若干の問題もある。「スケール」という言葉は一般的になったものの不正確であり、定義が曖昧なまま意欲を示す言葉として多用されているというのだ。
こうした視点に基づき、本書で著者は広い意味でのスケーリングに関する考え方を明らかにしているわけだ。その根本にあるのは、「どの領域でも、小さく始めて規模を拡大するのは、最大の難題だが最大のチャンスでもある」という視点である。
2013年にヴァージン・アトランティック航空は、燃費の向上による炭素排出量の大幅な削減を目指していたという。実現できれば環境にいいだけではなく、経費を大幅に削減することも可能だ。唯一の問題があるとすれば、「どのように手をつけるか」ということだろう。
この問題でのポイントは、ヴァージンが「燃費向上のカギを握るのは機長だ」と認識していたこと。パイロットのちょっとした選択で、消費量が大きく変わってくるからである。
たとえば離陸前、機長は機体の重量や天候を勘案し、機体に積み込む燃料の計画を立てなければならない。もちろん飛行中も高度を選択し、最短ルートを要求し、管制塔からの指示に従うことになる。両翼のセッティングなどの航空力学に関連する決定によって、使用燃料の量は変わってくるだろう。