抜群に働きがいある会社と見かけ倒しの会社の差

しかし社会的インセンティブの場合は、たとえ規模を拡大したとしてもずっと安上がりで済む。また、人間の心理はグループごとに大きく変わるわけではなく、たいていの人は似たり寄ったりの程度で損失を回避し、ほぼ全員が社会的イメージを気にするものでもある。そのため、このタイプのインセンティブ戦略は拡張しやすい。

だが金銭的報酬をインセンティブにする場合、必要な額は人によって大きく変わってくることになる。スケールアップで目指すものは、利益や社会的インパクト、健康、学力向上など多岐にわたるに違いないが、インセンティブの設計にあたっては、社会性と損失回避の傾向(それは人間に備わったものだ)を活用し、関係者全体にメリットをもたらす配慮が求められるのである。

重要なポイントは、こうした原則がビジネス以外の世界にもあてはまることだ。

<たとえば医師は、患者に毎日、薬の服用や運動の記録をつけさせることで、治療計画を守らせるインセンティブを付与できる。教師は生徒に学習時間や宿題を終えた時間を記録させる。(181ページより)>
 

もちろん、こうしたインセンティブだけがボルテージを高める唯一の方法ではなく、お金も有効ではある。ただし大規模な金銭的インセンティブは、「カネを出すから、もっと働け」という“昔ながらの陳腐なやり方”よりも、もっと創造的な形で導入することができる。

エコノミストとしての立場に基づくリスト氏のこうした主張は、非常に洗練されているといえるのではないだろうか?