抜群に働きがいある会社と見かけ倒しの会社の差

インセンティブの効果は絶大

ナッジを適用した3つのグループのなかで、最大の効果が上がったのは第2のグループだったそうだ。毎月の実績に加え、明確な燃費節減目標を示し、目標達成を促すメッセージを受け取った人々。燃費向上効果は、前月の実績だけを知らされたグループを28%も上回っていたというのだから驚かされる。

<これはあたかも、目標を達成できないかもしれないという可能性だけで、パイロットは燃料を節減し、体面を保つようになる、つまり自分自身を期待に応え、規範を守る人間として見ることができるかのようだった。興味深いことに、慈善団体への寄付という追加的なインセンティブには効果がなかったようだ。平均すると、寄付に関するメッセージを受け取ったパイロットが、削減目標と奨励の手紙を受け取ったパイロット以上に燃費を削減したとは言えない。寄付がなくても、インセンティブの効果は最大になっていたのだ。(176ページより)>
 

実験の結果、ヴァージン航空が節減した燃料は7700トン、燃料費は537万ドル、削減した炭素排出量は2万1500メトリックトン(1メトリックトンは1000kg、日本国内での1トンにあたる)にのぼったという。

しかし、そうした数字以上に喜ぶべきは機長たちの反応かもしれない。彼らはこの実験を気に入り、79%がこうしたことにもっと取り組みたいと回答したというのだ(そうしたくないと答えた割合は6%)。そればかりか、対照群にくらべて介入群の機長には、仕事の満足度の向上も見られたそうだ。

セルフイメージを守ろうとする意義

<わたしが実施した他のフィールド実験でも、この種のインセンティブは、どんな状況でも、どんな人々に対しても有効であることがあきらかになっている。たとえば、省エネ型の蛍光灯は多くの利点があるにもかかわらず、アメリカ人家庭では抵抗感が強いが、シカゴでおなじように近隣住民と比較したメッセージを送る実験を行った結果、多くの世帯で蛍光灯の利用を増やすことができた。(179ページより)>
 

このような結果を鑑みたうえで、セルフイメージや社会的規範を守ろうとするパワーの活用は、人々の行動を環境や社会にプラスに転換するだけでなく、当初は抵抗感の強い最新のテクノロジーの普及にも一役買うことができるかもしれないとリスト氏は述べている。

加えて注目すべきは、こうしたインセンティブが選挙ブースにも及ぶという指摘だ。つまり、こういうことである。

<多くの人が投票に出かけるのは、他人から投票に行ったかどうか聞かれるのがわかっていて、行ったと言えば誇らしく、行かなかったと正直に言うのは恥ずかしいと思っているからだ。言い換えれば、時間を割いて投票所に足を運ぶことをしなかったと認めると、民主的プロセスに参加する熱心な市民としてのセルフイメージが崩れてしまう。わたしが実施した投票行動に関する調査では、単純に自身の行動について報告させるだけで(嘘をつくことができるとしても)、向社会的な選択を促すインセンティブになることがあきらかになった。(179ページより)>
 

思わず笑ってしまったのだが、とはいえこれは、さまざまな状況でスケールアップするうえで大きな意味合いを持つだろう。企業からすると、規模が大きくなるにつれて従業員のモニタリング・コストは重くなる。しかし、質問票や調査を活用するだけで、ポジティブな行動を促し、(窃盗などの)望ましくない行動を減らせる可能性があるわけだ。しかも質問票や調査なら、簡単に取り入れることができる。

ビジネス以外にも当てはまる原則

一般的なインセンティブとして思いつくのは、「従業員の報酬を増やす」「昼食を無料にする」「福利厚生を充実させる」などだが、それらは企業の規模が大きくなるにつれて負担が過大になるおそれがある。