ナッジを適用した3つのグループのなかで、最大の効果が上がったのは第2のグループだったそうだ。毎月の実績に加え、明確な燃費節減目標を示し、目標達成を促すメッセージを受け取った人々。燃費向上効果は、前月の実績だけを知らされたグループを28%も上回っていたというのだから驚かされる。
実験の結果、ヴァージン航空が節減した燃料は7700トン、燃料費は537万ドル、削減した炭素排出量は2万1500メトリックトン(1メトリックトンは1000kg、日本国内での1トンにあたる)にのぼったという。
しかし、そうした数字以上に喜ぶべきは機長たちの反応かもしれない。彼らはこの実験を気に入り、79%がこうしたことにもっと取り組みたいと回答したというのだ(そうしたくないと答えた割合は6%)。そればかりか、対照群にくらべて介入群の機長には、仕事の満足度の向上も見られたそうだ。
このような結果を鑑みたうえで、セルフイメージや社会的規範を守ろうとするパワーの活用は、人々の行動を環境や社会にプラスに転換するだけでなく、当初は抵抗感の強い最新のテクノロジーの普及にも一役買うことができるかもしれないとリスト氏は述べている。
加えて注目すべきは、こうしたインセンティブが選挙ブースにも及ぶという指摘だ。つまり、こういうことである。
思わず笑ってしまったのだが、とはいえこれは、さまざまな状況でスケールアップするうえで大きな意味合いを持つだろう。企業からすると、規模が大きくなるにつれて従業員のモニタリング・コストは重くなる。しかし、質問票や調査を活用するだけで、ポジティブな行動を促し、(窃盗などの)望ましくない行動を減らせる可能性があるわけだ。しかも質問票や調査なら、簡単に取り入れることができる。
一般的なインセンティブとして思いつくのは、「従業員の報酬を増やす」「昼食を無料にする」「福利厚生を充実させる」などだが、それらは企業の規模が大きくなるにつれて負担が過大になるおそれがある。