サウジアラビアの前は同じアジア勢のカタール、イラン、オーストラリアが大敗を喫していただけに、それらは無視していいものだけ取り入れる、一流らしいメンタル術が見られたのです。
さらに頼もしかったのは、優勝候補から歴史的な逆転勝利を収めても、まったく満足していない選手が目立ったこと。それが最も表れていたのが、鎌田大地選手でした。
「自分たちは本当に勝てると思っていましたし、『最低でも勝ち点1は取れる』って心の底から思っていたので、しっかり結果で証明できてよかった」「自分たちがしっかりやれば世界のトップとも渡り合えることを証明できたと思う」と自信を示す一方で、「前半は彼らをリスペクトしすぎて臆病に戦っていた」「僕個人的なプレーも今シーズンでいちばんよくなかった出来」「前半のまま後半も終わっていたら間違いなく一生後悔をするような内容」と不満をあらわにしていました。
鎌田選手の意識や評価基準は、勝敗とは別次元のところにもあるのでしょう。だから優勝候補のドイツに勝ったところでブレることはなく、自分に言い聞かせることで次戦のモチベーションにつなげている様子が伝わってきました。勝敗だけでなく、別の意識や評価基準を持っている人こそ常勝チームに欠かせない存在。「勝てばOK」という目先の出来事に集中してしまう人の集まりでは勝ち続けることは難しいのです。
三笘薫選手も、さまざまなフレーズで満ち足りない心境を表現していました。
「(ドイツに逆転勝利したことについて)まあほとんど逆転したことはないですけど、ここで出るのは運もあると思いますし、でもチームとして我慢強く戦って何度かオフサイドもありましたし、(運が)ついてたんじゃないかなと思っています」と誰よりもクールな反応。自分たちの実力で勝ったのではなく運がよかっただけであり、「次はもっと実力を出して勝つ」というニュアンスを感じさせました。
また、「(コンディションは)まだ全然100(%)ではないですけど、チームの力になれましたし、しっかりコンディションを上げていきたいなと思っています」と余裕を感じさせるコメントも。ゴールについて聞かれたときも、「もちろん狙っていきますけど、チームとしての役割をしっかり考えて。今日は(ポジションが後方の)ウイングバックでしたし、チームのためにプレーすることが大事」とインタビューの質問をサラッとかわしました。
まるで「もっとすごいプレーを見せるつもりだから」と言っているようであり、三笘選手のようなピンチをもろともしない冷静な切り札のいるチームが強いのは当然でしょう。
最後にピックアップしたいのは、誰よりもメンタルの強さを感じさせた2人。
遠藤航選手は、「個人的には『なぜこの4年間(ドイツの)ブンデス(リーガ)やってきたのか』を証明できたと思います」「正直『この試合に懸ける』というか、『最初のワールドカップの試合』というところもあるし、『対ドイツ』というところでも、あとのことを考えずにこの1戦、勝ち点3を取りたいと思っていた」とコメント。
古くから「ワールドカップほどのビッグイベントは、冷静なだけで勝つのは難しい」と言われ、だからこそ激しいプレーが飛び交うことで知られています。チームの中に遠藤選手のような「この1戦はどうしても勝つ」とはっきりこだわるメンバーがいることで、全員が自分のスタンスをあらためて考え直せますし、試合でも「あと一歩を前に出るか、我慢するか」などの判断に迷いがなくなるのではないでしょうか。
もう1人は、この日の試合でワールドカップにおける日本代表の最年長出場(36歳)と最多出場(12試合)を更新した長友佑都選手。途中交替後もベンチから誰より早く前に出て選手たちを盛り上げていましたが、試合後もそのテンションはまったく落ちませんでした。