日本代表「ドーハの歓喜」強固なメンタル術の深み

「もし失敗したら……」というリスクをスルーした、まさにカリスマを思わせるコメントですが、このようなフレーズは仲間たちに「お前が言うなら自分も」とポジティブな影響を広げられる効果が期待できます。もちろんそれは堂安選手の努力あってのものですが、「現在の社会には有言実行型の人が少なくなった」と言われるだけにその存在は貴重。今後も「(目標と言われている)ベスト8ではなく優勝を目指す」と言い切る堂安選手は人々の注目を集めるでしょう。

さらに決勝ゴールを決めた浅野拓磨選手のコメントにも学びがあふれています。

「『チャンスがあればシュートを打つ』と決めていましたし、その前にもいくつかチャンスがあって、それが結果に最後つながったかなと思いました。4年半前にワールドカップメンバーに入れなくて、その瞬間から今日のことを想像しながら、今日の日のために全力で準備してきたので、『それが結果につながっただけかな』と思いますし、これが結果につながってなかったとしても、やってきたことは変わらないので、『それが今日たまたま結果につながっただけかな』と思います」

前回のロシア大会で最後にメンバーから外れた浅野選手にとっては4年半越しでつかんだ夢の舞台。「『前回のワールドカップを経験できなかった』という経験をできたこと」を自分の財産にした過程が伝わってきますし、加えて今年9月に右ひざ靱帯断裂の危機に陥っても、この日に合わせてチャンスを待ち続けてきた様子がうかがえます。

また、チームメートがそれらを知っていたからこそ、浅野選手がゴールを決めたときの喜びはひとしおであり、さらなるチーム力のアップにつながるのではないでしょうか。

サウジだけ参考にする一流の思考回路

前日に、同じくワールドカップ優勝経験国のアルゼンチンを2-1で破ったサウジアラビアを引き合いに出したのが、久保建英選手と酒井宏樹選手。

まず久保選手は、「後半から僕は交替しましたけど、5バックになってから監督のプランが当たってチーム一丸となって勝利を取れたかなと思います。まあ1点で耐えてオープンな展開っていうサウジアラビアとまったく同じ形でしっかり逆転勝利できてすごいよかったと思います」「個人としては全然ダメでしたし、もっと苦しい時間帯のチームで、4(バック)だろうが5(バック)だろうが、僕がもっとタメを作ったりしなければいけないと思いますし、(中略)けどそんなことはどうでもいいので、チームが勝つのがうれしいです」とコメント。

前半のみで交替したことで逆に久保選手のコメントに注目が集まりましたが、極めて冷静かつポジティブな言葉に終始。交替させられて頭に血がのぼるのではなく、サウジアラビアの逆転劇をイメージできていましたし、自分の出来が悪かったときこそ「チームが勝つのがうれしい」と明確に言い切った姿勢がチームの士気を高めるでしょう。

一方、酒井選手は、「昨日、サウジアラビアがアルゼンチン相手にすごく勇敢な試合を見せてくれたので、やはり『1失点で収められれば何が起きるかわからない』というのはみんな思っていましたし、実際途中から入った選手たちも含めて、『みんなが戦えたことが今日の勝利につながったんじゃないかな』と思います」

日本代表はトップシーンで活躍する選手たちが多いからこそ、サウジアラビアの成功を自分に重ね合わせるイメージトレーニングが可能で、それを追い風にできるのでしょう。これは試合中も同様であり、「この展開になったらこう動こう」「この成功例に近づけるためにはこうしなければ」などと思考回路がフル回転している様子が酒井選手のコメントから伝わってきました。