日本社会は、キャリアを取り巻く3つの歴史的転換期にいます。
1つめは、政府による働き方改革の推進です。時短や勤務間インターバルなど多様な働き方ができるようになって、よりよくなってきています。
2つめは、経済界による終身雇用など日本型雇用の制度転換です。トヨタの豊田章男会長、経団連の故・中西宏明元会長などは、今後は自分たちでキャリア形成しなければならないという、ある種の警告を発しました。
3つめは、社会における今回のコロナ・パンデミックです。
この歴史的転換に翻弄されるのか、それとも主体的に乗りこなしていくのか。その2択を迫られた状況のなかで、『ライフ・シフト2』は、長生きをポジティブに捉えるというスタンスをとっています。
著者たちは、前作『ライフ・シフト』で、日本社会に対して、超少子高齢化という社会構造を生き抜く国として、世界的なロールモデルになってほしいと書いています。そして今作では、さらに踏み込んで「長寿の配当」に触れました。
日本人は、経済的報酬に重きをおいて働き、高度経済成長期を戦ってきたと思いますが、人生100年時代となり、「教育→仕事→引退」という3ステージモデルが立ち行かなくなりました。
最近、家電量販店のノジマが、定年を廃止して80歳を超えても働けるという制度を発表して話題になりました。その一方で、50歳以下の早期退職のニュースも話題に上ります。これまでのキャリアが非常に揺らいでいるのです。
このときに、長期的な時間軸で、ポジティブに行動戦略を考える必要性を、本書はより明確に日本人に届けてくれています。
前作から今作に通底しているのは、お金や不動産などの「有形資産」ではなく、健康やコミュニティなど「無形資産」にフォーカスする必要性です。
僕はここにヒントを得て、『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』を書き、「キャリア資本」という概念を紹介しました。
今後の日本では、企業におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)と、それを駆動させるための個人のCX(キャリア・トランスフォーメーション)が肝になると考えています。
『ライフ・シフト2』でも「DXやAIなどの技術変化は、人類に悲劇をもたらすのか?」という問いが立てられています。
これに対する答えとして、著者たちが打ち出しているのが、「社会的開拓者(ソーシャル・パイオニア)」という概念です。
パイオニアという概念には、先駆者的で特権的なイメージがありますが、本書ではそうではなく、日常の行動戦略をしっかり練り込み、創意工夫することで、誰もがパイオニアになれるというメッセージが込められています。