ポイントは、いかに長く、サステイナブルな生産性を保持するかにあります。たとえば、55歳で主要ポストから外れ、60歳で定年、再雇用という形を前提にすると、受け身のキャリア形成になっていきます。
しかし、本書で提唱されているのは、自分のキャリアを長く設計することで、それがある種のセーフティーネットとなっていく、という考え方です。
年金不安がささやかれていますが、しっかりとしたキャリアを形成することが実は安心の「年金」として機能してくれるのではないかと思います。
そのためには、自身の持つスキルをアップデートし続け、長寿の配当を受け取ることを念頭に置いて人生を生きていかなければなりません。
ではどうやって「長寿の配当」をデザインしていくのか。『ライフ・シフト2』では、「物語」「探索」「関係」の3つが述べられています。
人生は、苦労や悩みや困難が多いものです。それをどうやって主体的に回避し、乗りこえていくのかが人生設計であり、そうした厳しいことにもきちんと触れつつ、1回限りの人生をしっかり生きようと言ってくれているのが、本書のいいところだと思います。
変化し続ける世界では、自分の持つスキルが社会からずれる場合もあります。探索、学習し、アップデートし続けることは大切です。
政府もリスキリングを取り上げてはいますが、得てして、表面的なスキルのアップデートという話になりがちです。しかし長い人生、長いキャリアを謳歌するためには、それだけでなく、内面的、本質的な変化が欠かせません。本書では、第4章「探索」で、学習と変身の実践が詳述されています。
有意義な人間関係を構築し、維持することも重要でしょう。働くといえば、経済的報酬を得て個人的に成功することをイメージすると思いますが、本当に大切なのは、そこで関わる人たちと、ビジネスを超えた深い結びつきを作り上げることではないでしょうか。人生の価値観を変えてくれる無形資産を得るということです。
「キャリア」という言葉について、私たちには、組織内で昇進していくことだという思い込みがあります。だからこそ、働くのが苦しかったのです。その考え方を変えて、キャリアを「ライフキャリア」と捉え直していかなければいけない。
生きるとは、仕事だけではないのです。結婚もあれば育児もあり、介護もあり、または健康を損ねた後で復帰するなど、いろいろな人生のイベントの中で形成されるものがキャリアです。
「ありうる自己」を意識し、将来を見つめ、可変性と再帰性を意識して、今から未来をデザインしていく。そのために、目の前にある認識を1つ1つ変えていこうという、本質的で大きなチャレンジが提唱されている一冊です。
従来型のキャリア論は、心理的なイシューに偏りすぎており、問題が個人に帰されている面があります。たとえば、働き方が変わり、メンタルが病んでいるということになると、心理的アプローチのみで個人の対策が論じられがちです。
しかし、そもそもキャリアとは、個人と企業をつなぐリレイション、つまり「関係」のことなのです。『プロティアン』では、問題を個人のものとは捉えず、個人と社会、個人と組織、個人と同僚や上司との関係など、つねに関係として考えています。
『ライフ・シフト2』も、個人と組織、個人と社会、個人と未来の関係を考えるための本だと見ることができます。そうした新しい関係を築いていくにあたり、私たち1人ひとりが社会的開拓者となりうるのです。
未来について戦略を立てるにあたっては、「キャリアは偶発的には形成されない」ということを理解したほうがいいと思います。
これまでのキャリア論は、過去のキャリアの棚卸ししかしていませんでした。しかしやはり、企業戦略と同じように、個人のキャリアも、未来について3年後、5年後、10年後と具体的に考える必要があります。