突然だが、ひとつ問いかけてみよう。あなたはコロナ禍を予想できただろうか?「ウイルスで誰もが家にこもってリモートワークに明け暮れる未来が突然来るかもしれない」などとコロナ以前に主張していた人がいたら、「そんなことありえないのでは?」と一笑に付していたのではないだろうか。
一方、SF(サイエンス・フィクション)作品のなかには、コロナ禍的な状況を予測できていたものがしっかりとある。1956年にアイザック・アシモフによって書かれたSF小説の古典『はだかの太陽』では、ウイルス感染を恐れて自宅に引きこもりリモート通話でコミュニケーションを取って暮らしている人類の姿が描かれている。もっと最近の例では、2010年に高嶋哲夫によって書かれたシミュレーション小説『首都感染』で、都市封鎖をしてパンデミックに立ち向かう人々の姿が描かれている。
実際にそのような状況を想定して動けていたら、例えば巣ごもり需要を見越した商品を開発したり、組織を在宅勤務しやすい状態にいち早く整えたりして、あなたはいま大成功できていたかもしれないし、大勢の人がそれに助けられていたかもしれない。未来予測とはそういうものだ。実際のところ、その予測がSF的か現実的か、なんて区分けは、後になってみないとほとんどわからない。
未来はつねに不確定で、ゆらいでいる。蓋然性の高い未来を想定しているだけでは、突如として訪れる大きなゆらぎに対処することはできない。誰かの予想した未来像を鵜呑みにするのではなく、自ら「予想外」の未来を予想する。そうすることで、斜め上の社会変化が起きたときに生き抜くことができる。
そのための方法論として近年ビジネスの現場で注目を集め、すでにさまざまな領域で実践されているのが、「SFプロトタイピング」と呼ばれる手法だ。
SFプロトタイピング……それはサイエンス・フィクション的な発想を元に、まだ実現していないビジョンの「試作品=プロトタイプ」を作ることで、他者と未来像を議論・共有するためのメソッドである。
SFプロトタイピングで作られるプロトタイプには、
1. ガジェットを介した未来の具現化:未来社会の変化を象徴するガジェット(製品・街・社会制度など)が登場すること
2. キャラクターからの具体的な眺め:抽象的な視点ではなく、特定の性格や意志、感情を持ったキャラクターの視点から、ガジェットのもたらす影響が考察されること
3. プロットによる動的なシミュレーション:断片的なシナリオにとどまらず、キャラクターたちの意識や社会状況が時間経過にともない変容してゆくプロセスを描くこと
――などの特徴があり、それらが「SF」という名前を冠している理由である。