名門として知られる東京女子医科大学の付属病院で、今年3月までに医師が一斉退職した。東京・新宿の本院では約50人の内科医が去るなど、診療現場にさまざまな影響が出ている。東洋経済オンラインが伝えた医師の大量退職は、国会で取り上げられるなど、大きな反響を呼んだ。(参考記事:「スクープ!東京女子医大で医師100人超が退職」東洋経済オンライン2021年4月20日配信) 混乱の原因は、医師の負担が増える労働条件を一方的に押しつけた大学側の姿勢にあった。
一方、東京女子医大は取材を拒否しながら、本記事が配信された当日夜にウェブサイトで「東洋経済オンラインによる本学に対する偏向報道」という見出しを掲げ、内容を全面的に否定する声明を掲載している。
こうした大学の対応に疑問を抱いた現役医師たちが、新たに病院内部の状況を赤裸々に証言。一気に医師が退職した影響を明らかにした。
「3月の退職者数は、ほぼ例年通り」「診療に支障をきたす事実はない」。東京女子医大のウェブサイトには、現在もこのような声明が掲載されている(5月24日現在)。だが、状況を最もよく知るのは医療現場の医師たちだろう。
「東洋経済オンラインの記事が出た後、『退職者は例年通りで、診療に支障はきたしていない』という内容の通知が職員に回ってきました。確かに退職した医師数は例年通りでも、同程度の入職者がいれば問題ありません。でも今年は明らかに入職者が少ない。通常業務に支障が出ていない、という大学の上層部の説明こそ、うそです」(A医師)
今回は医師の証言を中心に、どのような影響が病院内に出ているのか、具体的なファクトを提示したい。
異なる診療科の医師たちから証言を得たが、今年の看護職員に対する「内規に反したコロナ感染では無給」騒動では、大学側が取材協力者を調査したことがあったことから、個人が特定できないように完全匿名で表記する。
東京女子医大の3つある付属病院で、中心的な存在が東京女子医科大学病院(東京・新宿区)。本院と呼ばれ、40を超える診療科と約1,200床を擁する巨大病院である。
医師一斉退職は、本院の「内科合同当直」に深刻な影響を与えた、と本院に勤務するB医師は証言した。
「今年4月から、内科合同当直を担当する医師が、約150人から約100人に減りました。医師の出入りが多い大学病院とはいえ、新人の内科医が明らかに少ない。私が東京女子医大に入局して10年以上になりますが、こんな異常事態は初めての経験です」(B医師)
内科合同当直とは、血液内科、呼吸器内科、高血圧・内分泌内科、消化器内科、腎臓内科、糖尿病・代謝内科、膠原病リウマチ内科、化学療法・緩和ケア科、総合診療科の合計9つの診療科が、持ち回り制で夜間の当直を担当する方式である。
当直する医師は1人。100人の当直要員がいても、救急外来や新型コロナ病棟などの担当もあるため、各医師に毎月2、3回は当直業務が回ってくるという。
「内科合同当直で担当する入院患者は、100人以上。女子医大は重症の患者さんが多くて、夜間の急変時などに医師1人で対応しなければなりません。
同じ内科とはいえ、診療科の専門性がかなり違います。病気によっては、ごくわずかな頭痛や微熱が重篤な状態に進む前のサインだったりする。専門の先生に電話で教えてもらう、オンコールというシステムもありますが、些細な症状で真夜中に電話で起こすのは、躊躇することもあります」(B医師)