東京女子医大の現役医師が訴える深刻な労働実態

ではなぜ、東京女子医大の現役医師たちから、悲痛な叫びともいえる証言があるのか。それは全体の医師数でみると「若干」という数字でも、特定の診療分野にとっては、深刻な影響を与えるからである。

本院では、約50人の内科医が減ったことで、当直業務やコロナ対応に影響が出ていると、現場の医師たちが証言している。分院の診療科では、数人の常勤医がいなくなった影響で、新規の外来患者や入院治療を中止する事態となった。

大学病院ならではの事情

深刻な影響が内科系の診療科に起きているのは、大学病院ならではの事情が関係している。

「診療、教育、研究」という3つの役割を担う大学病院では、すべての診療科に高度な専門知識や経験、診療スキルを兼ね備えた医師を揃えていなければならない。

診療科(医局)によって所属の医師数も差が大きく、東京女子医大には数十人の医師がいるメジャーな診療科がある一方、10人以下のところも存在する。

つまり、数人の医師が退職することは、診療科によってまったく違う意味を持つのだ。

前述のとおり本院の内科系診療科では、指導医クラスの医師が退職した影響で、3つの診療チームが1つに縮小されて、若手医師の教育が十分にできない状態にあるという。このままでは、名門大学病院としての診療レベルが保てるのか、現場の医師が危機感を抱いているのだ。

こうした紛れもない事実を前にして、「診療に支障をきたす事実はない」という東京女子医大の主張は、ただ空虚に響く。

医師数の詳しい増減を含め、診療への影響について、東京女子医大に説明を求めたいところだが、大学からの回答書には追加取材は受けないと明示されていた。

率直にいえば、新型コロナ第4波のまっただ中のタイミングで、医療機関に対して批判的な報道をすることには迷いもあった。だが、東京女子医大の経営陣は、昨年のボーナスゼロ騒動や労働条件の一方的な変更など、働く人たちへの配慮に欠ける対応が目立つ。

だからこそ、いま東京女子医大の内部で起きている異常事態を伝える意義はあるのではないか。最終的に報道を後押ししたのは、東京女子医大に残る決断をした医師の言葉だった。

「上のやり方がめちゃくちゃで、同僚がもう働けないと去っていきましたので、自分もあと1、2年かなと思っていました。そんな時に出た東洋経済の記事は、経営陣に反省を促す力になるかもしれません」(C医師)