東京女子医大の現役医師が訴える深刻な労働実態

以前の当直体制は、診療科ごとに医師が対応していたので、夜間は常時約15人の医師がいた。それが2017年ごろ、効率化や経費削減という病院の方針で、現在の合同当直に切り替わった。現場の医師からは反対する声もあったが、押し切られたという。当初の合同当直は医師6人体制で始まったが、どんどん減らされて現在は1人になっている。

<影響2 コロナチームの主力医師が半減>

本院では、総合診療科が中心となって新型コロナ感染症の対応をしているが、スタッフが足りないため、脳神経、循環器、消化器など内科系の診療科から応援の医師が加わり、20人の混成コロナチームが編成された。

主力となっているのが、医師3年目から7年目の若手。専門医の資格をとるために、後期研修を受けている医師たちである。昨年、本院の内科には、約30人が採用された。それが、今年の採用は半分に減ってしまったという。その影響で、今年4月からコロナチームの維持が難しくなったと、C医師は証言する。

「後期研修の医師が昨年の半分に減って、コロナチームのローテーションが組めなくなりました。それで指導医クラスの医師も駆り出されています。医師不足だからといって、コロナ対応に影響を出すわけにはいかず、残っている現場の医師で維持するしかありません。4月からずっとオーバーワークです」(C医師)

現在は、20人だったコロナチームを16人に縮小して、指導医を務める立場の医師(助教など)も加わっている。コロナ病棟の担当になると、当直は月4回。コロナ陽性の患者対応では、昼夜を問わず常に緊張が強いられる。最近ではコロナではない、外科系疾患の患者まで診ることになり、体力的にも精神的にも厳しいという。

「無理をすれば何とかなる。やるしかありません」

コロナチームの対応もしている前出のA医師は、本音を話してくれた。

「私たちが無理をすれば、何とかなる。他に代わりの医者はいませんから、やるしかありません。でもコロナチーム以外に、内科の合同当直、救急外来の当番、そして所属している診療科の仕事もあります。若手内科医の負担は、本当に大きくなりました」(A医師)

<影響3 診療チーム3班が1班に縮小>

東京女子医大には、レベルの高い診断力や治療スキルを若手医師に丁寧に教える伝統があった。それが急激な医師の減少で、失われようとしているという。

「うちでは10年以上の経験を積んだ医師が班長になって、若手医師6、7人のチームを指導しながら病棟の患者を受け持ちます。これくらいの人数だと班長の指導が行き届いて、担当患者を丁寧に診ることができますし、検査の見落としなどのミスも防げます。

しかし、今年3月末に指導医クラスの医師が一気に辞めてしまい、内科のある診療科では3チームから1チームに縮小されました。その診療科では若手のフォローが十分にできなくなっています。診療の質にも影響しますので、ミスや事故が起きないか、心配ですね」(前出のA医師)

指導的な立場のB医師は、東京女子医大の内情を明かした。

「普段から経営陣は『女子医大は手術で稼ぐ病院』と公言しています。そのせいか、外科が優遇されて新型コロナの対応などは、内科に負担がかかっている印象を受けます。大学病院の医師のミッションは、診療、研究、教育の3つありますが、4月から医師が大幅に減ってしまい、診療だけで手一杯の状況になりました。後輩医師の教育は、時間の余裕がないとできません」(B医師)

<影響4 教授が月8回の当直、新規外来や入院の中止も>

本院の内科以外にも、医師一斉退職の影響は出ている。

ハイリスク妊婦の新生児や超未熟児などを担当する、本院の新生児科。NICU(新生児集中治療施設)18床、GCU(回復期病床)21床を5人の常勤医でカバーしていたが、3人が退職した。新規採用は1人のみ。