誰しも望む未来があります。しかし、その未来を実現できる人は、ひとにぎりだと考えていませんか? そんなことはありません。未来の自分を変えるヒントは、あなた自身の中にあるのです。過去に「目をつけ」「掘り下げて」「引き出す」。このプロセスの繰り返しが、あなたの未来を大きく変えるのです。ここでは、自分自身を「振り返る」ことで見えてくる、あなたが望む未来の導き出し方を紹介していきます。そう、あなたの過去は宝の山なのです。
自分の視座から見たらどう見えるか、どう感じられるかを味わい、他人の視座からはどう見えたのか、どう感じられたのか。場面全体を俯瞰したらどう見えるのか感じられるのか。それらを順番にゆっくりと味わっていきます。
そうしていると自ずと、その場面の意味合いが理解されてきます。
ある部門のP部長には悩みの種がありました。優秀な部下であるQさんの業績が思わしくないのです。半年前までは、部門トップの成績をあげていたのに、今では、部門の平均以下の実績しかあげていません。ショート・ミーティングを行って、Qさんの様子を聞くのですが、質問にも生返事しかせず、覇気(はき)がありません。
そこでP部長は、いつからQさんは今のような状態になってしまったのかと、振り返ってみました。半年前までは絶好調だったのです。しかし、いつのまにか成績が落ちてしまった。一体いつからか……。
思い当たったのは、半年前の業績評価面談でした。Qさんは、入社以来業績をあげており、若手の中でも有望株と目されていました。数ヶ月間、連続でトップ3に入る成績をあげていたQさんのことをP部長も買っており、もっともっと業績を伸ばして欲しいと思っていました。
その面談は、業績評価制度に基づいて、ボーナスの査定結果を伝えるのが目的でした。
査定の結果は、Qさんの自己評価の申告よりも低い評価になっていました。P部長としては、Qさんの希望を叶えてあげたかったのですが、上位部門の調整が入って、結果としてはQさんの希望通りの評価とはなりませんでした。
P部長は面談の席で、過去半年の行動を取りあげて、Qさんの至らない点を指摘しました。意図したのは、指摘した点を改善してもっと頑張っていけば、かならず評価は高まるのだから、というものでした。
伝えるべきことを伝え終えて、P部長は聞きました。
「何か、意見とか質問とかあったら言ってくれ」
「いえ、特にありません」
しかし、面談を終えたときには、Qさんは不機嫌そうな顔をしていました。そんなことを思い出したのです。当時のQさんの立場になって、Qさんの気持ちを味わってみました。
「これまで全力で努力してきたのにこの結果か」
「部長は、ダメなところしか言わない」
「できていたつもりだったけど、自分には能力がないのかもしれない」
「あれだけ努力したのに給料があがらないのなら、他の仕事を探したほうがいいかもしれない」
などと、Qさんの感じていそうなことが思い浮かびました。
考えてみれば、面談の席でP部長は、Qさんのいいところを一切褒めていませんでした。ついつい、もっとよくなって欲しいという思いで、ダメな点、改善すべき点をすべて数えあげて伝えていたのでした。
Qさんには、P部長が評価しているところは一切伝わらず、ダメだというメッセージしか伝わっていなかったのだということに気づいたのです。
「自分としては、今回の評価に一喜一憂するなということを伝えたかったのに」
まったく逆効果だったようでした。そこで、この気づきを活かして、あらためてP部長はQさんと面談しました。まず、Qさんに、今何を感じ、何を考えているのか。あの面談のことをどう感じているのかを、話してもらいました。
Qさんはなかなか言いづらそうでしたが、P部長は、自分のQさんへの期待を伝え、もしも誤解をしているならば、誤解を解きたいということを、誠意をもって伝えました。
部員の誰もが業績をあげてもらいたいと思っているし、Qさんには特に期待しているのだということ。そして評価制度の仕組みと、今後どうすれば評価を高めることができるのかを伝えました。
すると、ようやくQさんは口を開き、「自分の努力がまったく評価されていなかったことに愕然とし、今後どうしていけばいいのかわからなくなっていた」と語りました。改善しろと言われたことも、改善しようとしたけれど、すぐに結果に繋がらないことばかりで、とても無理だと絶望していたのだそうです。
このような話し合いをもつことで、Qさんはあらためてやる気を出し、以前のような成績をあげるようになったそうです。
現状を正しく認識し、何が起きているのかを把握し、的確に対応する。そのために「振り返り」は頻繁に行っていく必要があるのです。
もう一つ、ある部門の中で、職場の仲間からいじめを受けていたRさんの例です。
「どうしてこんな目に遭わなければいけないんだろう?」
と、彼は心の中でいつも仲間を非難していました。
そこで、視座の転換をして、同僚や上司の視座を味わってみてもらいました。すると、今まで見えていなかった部門の課題や上司の思い、同僚の気遣いなどが見えてきました。
「自分の仕事さえ完璧にしていればいい」というそれまでの考えが、いかに一面的であったかに気づき、いじめだと受け止めていた同僚の発言が、実は苦しみながらも仲間を応援する言葉だったことに気づいたのです。
それ以後は、もっと上司や同僚との意思疎通をはかることにし、関係を改善させることができたそうです。
私たちは、極めて限られた視野でものごとをとらえています。それは「私たちは常に特定の視座からものを見ている」からです。
この視座の転換によって、いくつもの視座を体験し、さらにそれを統合することで、今まで見えなかったものを見ることができるのです。