人手不足が極まり若手への期待が高まる一方のIT職だが、新卒エンジニアが就職するIT企業の研修で学ぶ分野が選択制となっており、どれを選ぶべきか迷っているというネット上の投稿が一部で話題になっている。選択対象は「プログラミング(言語はJavaまたはC)」「サーバ(AWSやAzureなど)」「ネットワーク」。はたして、その難易度や将来性などを考慮すると、どれを選ぶべきなのか。データアナリストでエンジニア転職市場に詳しい、鶴見教育工学研究所の田中健太氏に解説してもらった。
最初に、一般的なIT企業の研修スタイルについて押さえておきたい。通常、新卒エンジニアが受ける研修の内容とタイムスパンはどのようなものだろうか。
「IT企業における新卒者研修の内容は、企業の規模や採用方針によって大きく変わります。推測ですが、今回の投稿をした方は比較的小さな企業にお勤めになっているのではないでしょうか。経営基盤が整っている企業の研修で、新卒者に安易な選択を迫るケースは基本的にないからです。人事担当者に、自社の技術や業務、技術者育成に関する基本的な理解が欠けている可能性があります」
たとえばNTTデータや富士通、NECなど、企業の依頼に応じてシステム開発を行う大手SIerは、文系大学出身の未経験者を含めて大量採用を行っている。入社初年度は研修に専念する期間となり、決められた内容を所定のスケジュールに沿ってこなしていく。当然、そこに選択の余地はない。
「ある大手SIerの例を挙げると、最初の3カ月はグループ内の研修会社で集合研修を行います。基本的なビジネススキルに始まり、ITの基礎を経て後半には具体的な開発研修に移行。修了後は営業からバックオフィスまで、社内の各部門をローテーションで回り、会社の様子と業務内容を把握させます。その後、各自に配属希望を提出させ、それと社内の都合を調整しながら2年目に配属が決まり、OJTに移っていきます」
ITエンジニアの世界では、身につけた技術をパスポートにして、スキルを発揮できる、もしくは高く買ってくれる企業を渡り歩くことがよくあるという。一方、大手SIerでは実力もさることながら、長期にわたって働いてくれる人材を求める。そこで研修を充実させて未経験者を社内で育成し、高水準の働き方や福利厚生を提供することで離職リスクを低減しているのだ。
大手SIer以外の業態では、同じ業界でも少し内情は異なるようだ。自社で汎用的なサービスを開発・販売する企業(SaaS企業)では、扱うサービスが決まっているため研修内容もそれに即したものになるという。
「研修に専念する期間は1~2カ月で、ビジネススキルや開発研修を行ったあとはすみやかに配属されます。研修で学ぶ言語は自社のサービスで使われているものになります。また、SIerでも規模的に中小に分類される企業や、あるいは大手でも実力主義の企業では研修のスタイルは異なるでしょう。両者は仕事のレベルや企業の規模はまったく違いますが、どちらも即戦力が欲しいという点では同じ。そのため、どちらも研修は最低限に抑えられていることが多いのです」
これらの企業では、現場や自分で学んでいくことを前提に、技術のみ短期速習で詰め込む研修が多いという。中小の場合はとにかく人手が足りないので最低限の研修で現場に送る。一方、実力主義の企業はもともと実力のある学生を採用しているので、研修の内容も高度・高速になっている。同じなのは研修期間の短さだけだ。加えて、内資・外資でも研修のやり方はかなり違っている。