誰しも望む未来があります。しかし、その未来を実現できる人は、ひとにぎりだと考えていませんか? そんなことはありません。未来の自分を変えるヒントは、あなた自身の中にあるのです。過去に「目をつけ」「掘り下げて」「引き出す」。このプロセスの繰り返しが、あなたの未来を大きく変えるのです。ここでは、自分自身を「振り返る」ことで見えてくる、あなたが望む未来の導き出し方を紹介していきます。そう、あなたの過去は宝の山なのです。
振り返りの基本は、思い出す(想起)ということです。記憶の海の中からある日の出来事に注目して、体験していたその場面を思い出します。
個人的現実・社会的現実・物理的現実の3つの領域を思い出していくと、漏れがありません。
個人的現実とは、心の内の感情や思考、気持ちや気分などです。
社会的現実とは、複数の人の間で共有された人間関係や共通認識、共通の感情、思惑、観念、文化、社会規範、企業理念、企業文化などです。
物理的現実は、物理的に存在する現実です。ルールは社会的現実ですが、それが明文化され書類になっていれば、それは物理的現実です。個人的現実も社会的現実も、物理的現実に影響を及ぼします。
特定の出来事を思い出すために、これら3つの現実の中で役立ちそうなことは何でも使います。その当時の状況、仕事、職場、友人関係、家族状況、経済・社会の動き、政治状況。
直接関係のない周辺情報を思い出したり、調べていくうちにいろいろなことが思い出されます。
今では、インターネットでたくさんのことを調べることができます。思いつく限りの記録を閲覧することもできるので、記録や資料なども参照しながら、当時のことを思い出します。
自分のことを思い出す場合には、自分の書いた日記やメモなどは有効な記録です。
振り返りは、主に過去の記憶や記録を対象とします。過去は、現在が過去になった瞬間から太古の昔、大げさに言えばビッグバンの瞬間までが対象です。いや、もし仮にビッグバン以前の世界があるとするのならば、振り返るのはビッグバン以前も対象となります。
しかも、過去に限定されるものではありません。現在も未来も対象にすることができます。
現在を振り返るというのは、ちょっと奇妙な言い方ですが、現在の自分の状況を俯瞰したり、他人の状況をその人の視座から味わったり、俯瞰してみたりということができます。これも振り返りです。
未来を振り返るというと、もっと奇妙ですが、仮定の話として、ある出来事が起きた場合の場面を誰かの主観的視座から味わったり、その場の状況を味わうことができます。
自分の行動を変えるためには、希望や願望が実現した未来の心躍る状況から振り返るのが一番効果的です。
仮に、これから二ヶ月間になすべき行動を明確にしたいというとき。
まず、現在抱えている案件や仕事、プロジェクトなどを書き出します。その優先順位をはっきりさせていけば、行動計画を立てることができます。
これは、現在を振り返った結果です。
未来を振り返るとどうなるでしょうか。仮に、五年後の未来にどうなっていたいかを具体的に想像します。そして、もしも五年後に、望ましい未来が実現していたとしたら、それまでの五年(現在から五年間のこと)はどのように進展してきたかを、「振り返り」ます。
未来の、まだ起きてもいない世界から、そこに至る道のりを振り返るのです。五年後の未来からさかのぼって道のりを確認していくと、〝今から二ヶ月間の動きは、その五年後の未来を実現するためにどうあるべきか〟が明瞭になります。
未来の姿が輝かしく魅力的であればあるほど、これから過ごす二ヶ月間も魅力的になります。
これが、未来から振り返るということです。とてもパワフルですので、どんどんありたい未来から振り返って、現在のなすべき行動を引き出して下さい。
自分と他人と全体の過去・現在・未来を振り返ることができる、というわけですから、時間的にも空間的にも際限のない森羅万象を取り扱うということになります。
振り返りの対象に目をつけて目的を確認した後は、その目的にあう出来事を探索し、掘り下げていきます。
出来事を思い出すことができたら、その場面を味わいます。場面を味わうコツは、その場面の中からスナップショットのような、「ある日、あるとき、ある一秒間」を選びます。その瞬間の3D環境映像の中に入ってしまったかのようにイメージすることです。想像力をフルに使います。
思い出も、時間の流れの中でたくさんの情報が変化していきます。そのときに、自分が何を感じていたのかを味わうためには、まるでタイムトリップしたかのように、その場面を全身で味わうことが大切なのです。
味わうプロセスは、3つの段階があります。
1.場面設定(状況を検証し、素材の選定をし、場面を設定する)
2.臨場吟味(その場面を体験するように味わう)
3.体験要約(臨場吟味した体験を要約してまとめる)
最初に、出来事を深く味わうためには場面を設定しないといけません。それが「場面設定」です。場面を構成する諸々の要素を吟味し、配置するのです。
場所の様子、その場にあった物、人、人々の表情や服装など。ちょうど、映画撮影の現場において、シーンのセットを組んで役者さんをふさわしい位置に立たせるようなものです。
たとえば、入社式の会場の前から六列目にいて、社長挨拶を聞いていた風景。
過去の出来事の場面設定ができたら、その「ある日、あるとき、ある一秒間」をその場に身を置いているようにイメージして味わいます。これが「臨場吟味」です。
たとえば、入社式で社長の口にしたジョークが聞こえ、新入社員が笑い、一気に緊張がほぐれ、なんとなくこの会社でやっていけると感じていた瞬間などです。
それをしっかりと味わったら、今度は言葉でまとめます。臨場吟味は、感覚で体験しただけです。そのまま、まとめないでいると、また記憶の海の中に戻っていってしまいます。ひと言でもいいので言葉でまとめておきます。それが「体験要約」です。絵にしても構いませんが、一番簡単なのは、言葉です。
ここで言うならば、入社式の場面は、「仲間がいる! という感覚」という言葉にまとめておきます。この言葉を思い出すだけで、入社式の場面とその意味合いを思い出すことができるようになり、その感覚を別の場面でも瞬時に利用できるようになるのです。