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第1章 王都編

第36話 知らない世界 リカルドside1

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 アリア・スコルピウスと出会った日からオレの日常は変わった。
 
スコルピウス公爵家我が家にお任せください。少しお時間を頂きますが、父が最良の結果をもたらすでしょう」
 
 なんて言っていたその日に、スコルピウス家に連れてこられるなんて誰が思う? 最良の結果って、これか?
 有無を言わさず連れてこられたスコルピウス家。来た瞬間から居心地が良かった。怯えた視線も、びる視線もない。
 普通の子どもとして、誰もが接してくれた。
 
 
「リカルド様。この者達がリカルド様のお世話をさせて頂きます」
 
 そう言って執事に紹介された俺付きの従者になる二人に視線を向ければ、燃えるような赤毛の二人は雰囲気がよく似ていた。
 そばかすがある女の方はニコニコと、がっしりとした体の男はにんまりと笑い、オレと視線が合うようにしゃがんだ。
 
「本日よりリカルド様付きの騎士となります、ガーディンと申します。こっちはメイドとして仕えさせて頂くキャルロットです。よろしくお願いいたします。
 これから魔力訓練、頑張りましょう!」
 
 その言葉に、二人がアリアと重なった。
  
「……お前ら、スコルピウス家の者か?」
 
 俺の言葉に少し驚いた表情をみせたが、より一層笑みを深めた二人に何ともいえない気持ちになる。
 
「リカルド様、私達はシャンパス家より参りました。アリアは私達のいとこです」
「顔は似てないな」
「ははっ! よく当てましたね」
 
 そう言ってガーディンは俺の頭を撫でた。その様子を見てキャルロットは慌てているが、ガーディンは全く気にした様子はなく、楽しそうにしている。
 
「リカルド様はこんなことじゃ怒らないから大丈夫だ。見ろよ、こんなにきれいな目をしてるんだぞ。それに、こんなにも愛らしいのだから、可愛がるなっていう方が無理な話だ!!」
 
 先程までとは違い、まるで昔からの知り合いのような態度と、俺のこの赤い目をきれいだと言っていることに戸惑ってしまう。何も反応ができていないうちに、急にキャルロットに抱きつかれた。
 
「私だって我慢してたのに、お兄ちゃんばっかりずるい!!」
 
 さっき出会ったばかりの新しい従者に撫でられ、抱き締められて、初めての状況に頭がグルグルする。何が何だか分からないまま猫っ可愛がりされ、いつの間にか二人に揉みくちゃにされていた。
 
 嬉しいような恥ずかしいような感情と共に、父上と母上にもこうして欲しいという渇望と諦め……様々な感情に揺さぶられ、俺の中の魔力が波打ったのを感じた。
 
 マズイ!! そう思った時にはすでにコントロールが効かない状況で──。
 
 
 ガタガタガタガタガタガタ……。
 
 
 机や椅子、様々な家具が大きく揺れ始めた。
 
 嫌われる……。嫌われたくない!! その一心で懸命に魔力を押さえ込もうとするが、焦れば焦るほど家具の揺れは大きくなり、今にも飛び交ってしまいそうだ。
 もう駄目だ……。諦めにも似た絶望に襲われたその時──。
 
 ガタガタ……ガタ……ガタ………………。
 
 ………………。
 
 
「止まった?」
 
 俺の中で溢れた魔力は気がついたらなくなっていた。
 
「驚かせてしまい、申し訳ありません」
 
 キャルロットがしょんぼりしながら頭を下げており、ガーディンの頭も無理矢理押さえつけて下げさせている。
 
 俺がそれに答えるよりも早くガーディンはキャルロットの手から抜け出し、大口を開けて笑う。
  
「元気で、よろしい!」 
 
 俺の頭をまたもや撫でながら、楽しそうに言った。
 
 
 
 翌日、魔力制御訓練を早速開始することになった。 
 スコルピウス公爵家の中にある鍛練場で行うそうで、ノアとかいう1歳下のスコルピウス家の跡取りと訓練をするらしい。
 
 どうせ、王家と繋がりが作りたくて跡取りと一緒に訓練をさせるのだろう。結局、みんな同じか……。 
 
「頑張ってこいよ。待ってるからな!」
「いってらっしゃい。気を確かに持ってね」
 
 ガーディンは笑顔で、キャルロットはというと目に涙を溜めて見送ってくれた。
 
 気を確かにって、たかが魔力制御訓練だろ? 大げさなキャルロットに思わず笑ってしまう。
 
 新しい従者の兄妹は仕事は完璧なのに、オレに敬語を使わず、まるで兄弟のように接してくる。いや、兄上よりもずっと近い距離感だ。
 本当ならすぐにでも止めさせなけばならない態度なのだが、オレの瞳を恐れず、第2王子としてではなくリカルドとして接してくれる二人にオレは救われたんだ。
 
 早く魔力制御をできるようになって、褒めてもらうんだ! と二人の顔を思い浮かべ、鍛練場の扉を潜った。
 
 
 
 扉を潜れば、執事が出迎えてくれた。
 
「リカルド様、ようこそいらっしゃいました。私がリカルド様の魔力制御の指南をさせて頂きます」 
「何言ってるんだ? お前は執事だろ?」
「執事ですな。ですが、魔力指南も務めさせて頂いております」
「へぇ。まぁ、よろしく頼む」  
 
 いつも通りに答えれば、遠くから射るような視線を感じた。
 
「……あいつは?」
 
 思わず声に出せば、その存在は一瞬で俺の目の前に現れた。
 
「ねぇ、それが人に教わる態度なの? 第2王子とは聞いていたけど、王家だからって指南してくれる人にそんな態度をとれるくらい偉いわけ?」
 
 俺よりも幼いようにみえる子に詰め寄られて言葉をなくす。
 
 こいつ、一瞬で移動した!?
 
 オレが王子とわかった上でこんな態度をとり、魔術を平然と使うのを目の当たりにして、自分の生きていた世界があまりにも狭かったことを痛感した。
 
 なにも言えなくなっているオレに、その子は小さく溜め息を吐くとセバスの方へと話しかける。
 
「ぼく、こんなのと一緒に修行するの嫌です。師匠、別々に御指南承ることはできませんか?」
 
 あまりの言われように唖然としていれば──。
 
 ゴスンッッ!!
 
 その子はセバスに拳骨をくらわされ、涙目で頭を抱えていた。
 
「坊っちゃんこそ、そんな言い方をしてはなりません。初めては誰にでもあるのです。それを最初から見放すような言い方をして……。
 リカルド様に謝りなさい」
 
 
 これが俺とノアの出会いだった。
 後に生涯俺を支えてくれる友人となるのだが、初対面でのお互いの印象は最悪。
 最も気にくわないタイプだったとお互いに笑いながら話すようになるのはまだ少し先のこと。
 
 
 
 
 
 
 
 
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