わたしはただの道具だったということですね。

「──ごめん。ぼくと、別れてほしいんだ」

 オーブリーは、頭を下げながらそう告げた。


 街で一、二を争うほど大きな商会、ビアンコ商会の跡継ぎであるオーブリーの元に嫁いで二年。貴族令嬢だったナタリアにとって、いわゆる平民の暮らしに、最初は戸惑うこともあったが、それでも優しいオーブリーたちに支えられ、この生活が当たり前になろうとしていたときのことだった。

 いわく、その理由は。

 初恋のリリアンに再会し、元夫に背負わさせた借金を肩代わりすると申し出たら、告白された。ずっと好きだった彼女と付き合いたいから、離縁したいというものだった。

 他の男にとられる前に早く別れてくれ。

 急かすオーブリーが、ナタリアに告白したのもプロポーズしたのも自分だが、それは父の命令で、家のためだったと明かす。
 
 とどめのように、オーブリーは小さな巾着袋をテーブルに置いた。

「少しだけど、お金が入ってる。ぼくは不倫したわけじゃないから、本来は慰謝料なんて払う必要はないけど……身勝手だという自覚はあるから」

「…………」

 手のひらにすっぽりと収まりそうな、小さな巾着袋。リリアンの借金額からすると、天と地ほどの差があるのは明らか。

「…………はっ」

 情けなくて、悔しくて。

 ナタリアは、涙が出そうになった。

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