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第1章 王都編
第17話 お守り
しおりを挟むあっという間にお茶会当日になり、馬車に揺られながらお城へと向かっている。
魔力制御をノアのおかげで完璧にものにした後は驚くほどに順調だった。魔術を使うことは思ったよりも苦労しなかったのだ。
部屋の模様替えはまだだけど、直にそれもできるようになるだろう。
「あーぁ。折角だから馬車の隣を走ってお城に行きたかったなぁ」
魔力が暴走させたように見せかけることを完璧にできるようになった私は、身体強化の魔術練習ばかりしていた。
その間に何回も池に落ちてミーアに怒られたり、壁を走って登ってる途中で失敗してノアの魔術に助けてもらったりと色々とあったのはご愛嬌だろう。
もう少しで水の上を走れそうなので、これからも練習をやめるつもりは微塵もない。
「アリアちゃんは、いったい何を目指しているのかしら……」
「うーん。最強の人間ですね!」
忍者だしね。強いのは当然だよね。あーぁ、いつか分身もできるようにならないかな。残像が残るほど早く動ければ可能かなぁ? それだとバラバラの動きは難しい? うーん……。
私が本気で言っているのは伝わったようだが、お母様は「そうなの。大変そうだけど、頑張ってね」と笑っている。
その様子を見て浮かぶ疑問。
「お母様は、私が令嬢っぽくなくてもいいんですか? 走り回らないで欲しいとか、おしとやかにして欲しいとか……」
言われたからできるとは限らないが、あまりにも気にしていないお母様が本当はどう考えているのか気になってしまう。
そんな私の気持ちを知ってか、知らずか、お母様は楽しそうに笑う。
「自分の人生を楽しんでくれるのが一番に決まっているわ。ノアだって、跡を継ぎたくなければ分家から養子を迎えればいいとも思っているもの。
もちろん、領民の税に支えられて生きていることは理解してもらわないといけないし、民を守る役目は果たさなければならないわよ。
けれど、やる気のない後継ぎよりも民を本気で考えてくれる人を後継者にした方がいいじゃない」
確かにそうだが、それでは貴族としての務めを果たしているとは言えないんじゃ……。
「それを領民は許してくれるのでしょうか」
「ふふ。大丈夫よ。跡を継がなくても、貴族らしくなくても民のためにできることはあるのよ。何せ、過去には平民に嫁いだ方もいるくらいだからね。
それを民は認めたのよ。何故だと思う?」
「えっと、とても立派な方だったからですか?」
そう答えながらも、あまりしっくりこない。
「そうね、立派な方だったそうよ。いつも民のことを想っていて、災害があればいち早くに駆け付けて魔術を使ってくれるような。普段は民に混じって機織りばかりしていたようだけれど」
あぁ。愛されていたんだな。領地を愛し、領民を愛した。だから、民はその人の幸せを願ったんだ。
「貴族として大切なのはね、民を想うことよ。そして、民がより良い生活を送れるように手助けをすること。
その手助けをするのであれば、スコルピウス家は本人の生き方には口を出さないのよ」
貴族らしいけれど、貴族らしくない。その言葉がピッタリな気がした。
「私の魔術もみんなのためになれる日がくるでしょうか」
「きっとくるわよ。……もうすぐ着くわね。心の準備はいいかしら?」
窓の外にはまだ少し距離はあるもののお城が見える。あそこで、ノアと私の平穏で楽しい日々を勝ち取って来なくてはならない。
「もちろんです! 絶対に成功させてみせます」
この日のために準備をしてきたのだ。ドレスだってバッチリだし。誰かに絡まれるように大人しそうな雰囲気にもしてもらった。抜かりはない!
「ふふっ、やる気満々ね。それじゃあ、お守りをあげるわね。目を閉じて」
言われた通りに目を閉じると、ふわりと甘い匂いが近づき、すぐに離れていく。
「はい、できたわよ。よく似合ってるわ」
手渡された鏡をみれば、私の右耳には瞳と同じ色の綺麗な赤い宝石がついていた。
「これはね、魔法がかかってるお守りなの。このピアスがアリアちゃんを守ってくれるわ」
そっと右耳に触れてみると、仄かな温かさと魔力を感じた。きっと魔道具なのだろう。
どんな効果があるのかな。右耳についた宝石を触りながら考えていたが、宝石が耳たぶにくっついたまま微動だにしないことに気が付いた。
「お母様、このピアスどのようにつけたのですか?」
私の耳にピアスの穴は開いていない。ピアスをつけてくれた時も痛みは何も感じなかった。それに、取ろうにも取れる気配が全くといって良いほどない。
「魔道具に込められた魔力でつけられるようになっているのよ。
耳たぶに穴を開ける必要もないし、痛くもないからいいでしょう? ただねぇ、一度つけてしまうとお守りの効果が切れるまでは外せないのよ」
これ、外れないの!? 思わず引っ張ってみたが、やはり外れる様子はない。困りはしないけど、外れないとか聞くと少しビビる。
けれど、お母様が着けてくれたということは必要なものなのだろう。
「ありがとうございます、お母様」
笑って言えば、優しく頭を撫でてくれた。
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