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第1章 王都編
第16話 センスが買えるなら、いくらでも
しおりを挟むドレスのデザインも無事に決まり、あとは魔力の制御と暴走に見せかけた魔術の習得だけだ。
いや、それが大変なんだけれど。
初日に魔力制御用の立方体を破壊しまくり、セバスを魔力欠乏状態まで追いやった私は、あれから1週間が経った今日も破壊の限りをつくしている。
「これじゃあ、お茶会までに間に合わないよ……」
「間に合う、間に合わないではありませんぞ。間に合わせるのです」
根性論みたいなことを言われても、本当にお手上げ状態なのである。これでも、魔力を立方体に満たして色を変える段階まで来たのだから、少しは進歩をしている。だが、色を変えようとそちらに気を取られると──。
パンっ!
赤に黄色が混じった立方体は、またもやサラサラと砂のように私の手から滑り落ちていった。
「あぁっ!!」
思わず叫べば、セバスはわざとらしくハンカチを目もとにあてた。
「アリア様、セバスは悲しゅうございます」
「うぅ……すみません」
「これで、354個目。職人達に申し訳ないですぞ。いい加減感覚を覚えてくださいませ」
「…………申し開きようもございません」
354個。これが何の数かというと、言わずもがなである。
魔力を流し過ぎるからなのか割れるのは分かっているのだ。これをノアが3日でできるようになったのかぁ。しかも、壊すことなく。
「セバスー、何でできないんだろ」
机に突っ伏して聞けば、だらしないと言われたがそれどころではない。私のメンタルはずたぼろなのだ。
「以前にも申したように魔力が桁外れなのと……」
「なのと?」
「センスですな」
もう、どうしようもないやつじゃん!
私のやる気は0だよ。いや、きっとマイナスだ。それでも、残り2週間で制御と魔術を習得しなければならないのだ。
「センスってどこで買えるんだろ」
「お金で買えればいくらでも出しましょう! と言いたいところですな。まぁ、買えないにしても工夫されてみてはどうですかな? なぜ駄目であったのか、きちんと分析はされるべきかと」
なるほど。確かに漠然とやってた気がする。ただ立方体の魔力を入れて、色を変えなくちゃ! くらいにしか思ってなかったものなぁ。
よし、まずは砂時計の砂が少しずつ落ちるイメージで魔力を入れてみよう。その時に最初から色もつけたらいいんじゃないかな。
やったことを忘れないようにとメモ帳に記入もしておこう。もちろん、結果も。
メモを取りはじめて3日。立方体を割る頻度は半分にまで減った。だが、相も変わらず綺麗な虹色にならない。今も色の順番は滅茶苦茶だし、何なら赤が多すぎる。
「ねぇ、ノア。お手本を見せてもらえる?」
今日は一緒に訓練をしているノアに声をかければすぐにやって見せてくれた。
「うーん、私とノアのやり方の何が違うんだろう。ノアは、どんなイメージでやってるの?」
「うーんとね、色鉛筆で塗っていくみたいにしてるよ」
色を塗っていくみたいにかぁ。試したことあるけど、手応えはなかったんだよな。やっぱり人それぞれってことか。
お礼を言いながら、次はどんなやり方を試そうか悩んでいるとノアに手を握られた。
「ノア、どうし──」
どうしたの? と聞こうとした言葉は最後まで私の口から発せられることはなく、私は思わず自身の手を見た。
私の魔力よりも少しひんやりとしたこれって、もしかして……。
「ぼくの魔力、わかる?」
オレンジ色を少しだけ帯びた黄金の瞳でノアは言った。
「うん! 分かるよ! ノアの魔力、ちゃんと分かる!!」
すごいっ! すごいすごいすごい!! 自分のだけじゃなくて、他の人の魔力も感じることってできるんだ。
興奮する私にノアは立方体を持たせた。そして、私の手の上から魔力を立方体に流し込んでいく。
「ぼくの魔力の流れを感じてみて」
そう言うと、立方体はあっという間にお手本の時のような綺麗な虹色にしてしまった。
「ごめん、ノア。もう一回お願いしてもいいかな? できたら、もう少しゆっくりしてもらえると助かるんだけど」
「もちろん、いいよ。アリアちゃんのためなら何回でもやるよ!」
何度も何度もやってもらい、魔力の動きや扱いを感覚を体に覚えさせていく。
何だか、私のイメージよりも魔力を隅々までぎゅうぎゅうに入れてる感じだなぁ。
うーん。カラー粘土を七色の順番に立方体に均等になるように入れていくイメージでいけるかな?
「ありがとう、ノア。やってみるね!」
気合い十分で望めば、色はバラバラにはならなかったし、7色がきちんと並んでいた。だが──。
「赤ばっかりだね」
「そうだね……」
今までで一番の出来ではあったが、色の配分はおかしいままだ。それでも、確実にコツはつかんだ。あとは、この感覚を忘れないうちに練習あるのみ。
「ノアのおかげで、何となく分かったよ。ありがとう」
そう伝えると、天使のような……いや天使よりも極上の笑みをノアが返してくれた。やっぱり今日もうちの弟は世界一可愛い。
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