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2 海の国の聖人候補
259 破綻した港町
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259
タイチが住んでいるのはマホロから船で半日ほどの場所にある港町バンダッタ。
面積こそ広いものの、ほとんど平野のないこの領地を支える一番栄えた場所だ。
主力産業は漁業。山を背にしているため、平坦地は少なく、バンダッタ周辺のその他の収入源は林業とごく小規模な農業、それに山の幸の収穫。
漁場が広く、魚以外に貝類も豊富な港は、年間を通じて実入りがよく、特に寒い時期には身の詰まった生貝がたくさん採れるため、安定した収入が得られる豊かな港だった。
ところが、その漁場で近年急激に魚貝、特に貝の収穫量が落ち始めた。
干し貝の物納で税金を納めていた多くの漁業関係者は焦ったが、有効な対策は特にないまま、一部の不心得者はなんとか貝を確保しようと禁漁とされている時期や場所にまで網をかけ、状況はさらに悪化の一途を辿った。
最近では魚の数も激減し、魚市場さえ立たない日が増えている状態だ。
「町の人たちが税金を支払えなくなるまであっという間でした。
何が起こっているのかも分からないまま、町中がどんどん荒んでいって……
そんな状況の時、かなりのお年だったこともありますが、心労のためでしょうか、人望の厚かったご領主様は急に亡くなってしまったのです。
しかも……町を率いてもらうはずだった若様は、あるだけの家財を持ち逃げし、町の借金を放棄し逃げてしまったんです……それで町中が混乱している間に……」
「休眠地になってしまったのね」
商業ギルドでタスカ幹事から聞いた話の通りだった。
行政停止地域、そこは住民がいない土地として、国から無視され、なんの手助けもされない場所。無価値として見捨てられた土地。
領主不在となった土地は、新しい領主を頂くか、自治区として認めさせるしかない。
だが、自治区として認めさせるには、税金が支払えるだけの仕事を取り戻さねばならず、困窮した彼らにその余裕があるはずもない。
(八方塞がりね……)
「おじさん一家はみんないい人たちです。俺にもできるだけのことをしてくれています。でも、俺はもう15をとうに超えた大人ですし、幼い子供たちもいるのに、あの子たちの分を削ってしまうと思うと、とても食べられなくて……」
(こんな優しい子が、どうして何度もこんな窮地に追い込まれなければならないのだろう)
私はタイチの運命に憤りを覚えた。
「タイチ、私があなたにこの国での案内役を〝仕事として〟お願いしたいと思っていることは、聞いているわよね」
「は、はい。ぜひ、お願い致します!少しでもおじ一家を助けたいんです!」
私は頷いた。
「バンダッタは風光明媚で魚の美味しい港町なんでしょう?
是非見て見てみたいわ。
ソーヤ、明日には出発するから準備してね!」
「了解です!すぐに、お支度致します」
ソーヤは早速荷造りに動き出す。
「あ、あの……」
急展開についてこれていないタイチに、私はにっこり笑いながら告げる。
「今日はここに泊まって頂戴。そして、バンダッタのことをいろいろ教えてね。
明日には、たくさんお土産を持って、あなたのおじさまにお会いしに行きましょう。
私にできることがあるかどうか判らないけれど、とにかく町の様子を見てみましょう」
私は頭の中で、バンダッタの場所の地図を精査しながら、土地の概要を把握する。
(先程の話から、いくつか不漁の原因らしきものが朧げながら推測はできるけど、土地を見ないと、はっきりしたことは言えないし……とにかく行ってみよう!)
〔セーヤ、ソーヤ 2人にはちょっとしたお願いがあるの〕
〔何なりと〕
〔何なりと〕
相変わらず、いいシンクロだ。
タイチや幼い子供たちが、こんなにやせ細っていると聞いては、打ち捨てても置けない。彼らの状況は逼迫している。
どう考えても、バンダッタの現状を短期間に改善できるのは、私の魔法やスキル以外にないだろう。
(表に出ないように気をつけながら、なんとかしなくちゃね)
タイチが住んでいるのはマホロから船で半日ほどの場所にある港町バンダッタ。
面積こそ広いものの、ほとんど平野のないこの領地を支える一番栄えた場所だ。
主力産業は漁業。山を背にしているため、平坦地は少なく、バンダッタ周辺のその他の収入源は林業とごく小規模な農業、それに山の幸の収穫。
漁場が広く、魚以外に貝類も豊富な港は、年間を通じて実入りがよく、特に寒い時期には身の詰まった生貝がたくさん採れるため、安定した収入が得られる豊かな港だった。
ところが、その漁場で近年急激に魚貝、特に貝の収穫量が落ち始めた。
干し貝の物納で税金を納めていた多くの漁業関係者は焦ったが、有効な対策は特にないまま、一部の不心得者はなんとか貝を確保しようと禁漁とされている時期や場所にまで網をかけ、状況はさらに悪化の一途を辿った。
最近では魚の数も激減し、魚市場さえ立たない日が増えている状態だ。
「町の人たちが税金を支払えなくなるまであっという間でした。
何が起こっているのかも分からないまま、町中がどんどん荒んでいって……
そんな状況の時、かなりのお年だったこともありますが、心労のためでしょうか、人望の厚かったご領主様は急に亡くなってしまったのです。
しかも……町を率いてもらうはずだった若様は、あるだけの家財を持ち逃げし、町の借金を放棄し逃げてしまったんです……それで町中が混乱している間に……」
「休眠地になってしまったのね」
商業ギルドでタスカ幹事から聞いた話の通りだった。
行政停止地域、そこは住民がいない土地として、国から無視され、なんの手助けもされない場所。無価値として見捨てられた土地。
領主不在となった土地は、新しい領主を頂くか、自治区として認めさせるしかない。
だが、自治区として認めさせるには、税金が支払えるだけの仕事を取り戻さねばならず、困窮した彼らにその余裕があるはずもない。
(八方塞がりね……)
「おじさん一家はみんないい人たちです。俺にもできるだけのことをしてくれています。でも、俺はもう15をとうに超えた大人ですし、幼い子供たちもいるのに、あの子たちの分を削ってしまうと思うと、とても食べられなくて……」
(こんな優しい子が、どうして何度もこんな窮地に追い込まれなければならないのだろう)
私はタイチの運命に憤りを覚えた。
「タイチ、私があなたにこの国での案内役を〝仕事として〟お願いしたいと思っていることは、聞いているわよね」
「は、はい。ぜひ、お願い致します!少しでもおじ一家を助けたいんです!」
私は頷いた。
「バンダッタは風光明媚で魚の美味しい港町なんでしょう?
是非見て見てみたいわ。
ソーヤ、明日には出発するから準備してね!」
「了解です!すぐに、お支度致します」
ソーヤは早速荷造りに動き出す。
「あ、あの……」
急展開についてこれていないタイチに、私はにっこり笑いながら告げる。
「今日はここに泊まって頂戴。そして、バンダッタのことをいろいろ教えてね。
明日には、たくさんお土産を持って、あなたのおじさまにお会いしに行きましょう。
私にできることがあるかどうか判らないけれど、とにかく町の様子を見てみましょう」
私は頭の中で、バンダッタの場所の地図を精査しながら、土地の概要を把握する。
(先程の話から、いくつか不漁の原因らしきものが朧げながら推測はできるけど、土地を見ないと、はっきりしたことは言えないし……とにかく行ってみよう!)
〔セーヤ、ソーヤ 2人にはちょっとしたお願いがあるの〕
〔何なりと〕
〔何なりと〕
相変わらず、いいシンクロだ。
タイチや幼い子供たちが、こんなにやせ細っていると聞いては、打ち捨てても置けない。彼らの状況は逼迫している。
どう考えても、バンダッタの現状を短期間に改善できるのは、私の魔法やスキル以外にないだろう。
(表に出ないように気をつけながら、なんとかしなくちゃね)
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