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十九話

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「え」

「……マジで?」

「マジで!」

「これ、もしかして……ヤッちゃってる?」

「うん。やっちゃってるッ!!」

(──いや、え……なんでぇええ?)

「ヤっちゃってるのかぁ……」

 そう消え入るように言うシセルに対して、頭をブンブンと勢いよく縦に振るレア。

「研究職の魔法使いですら最速は0.01秒で再発動とかなんだけど。シセルは同時発動できた……できてしまった。多分世界初だから、もしこれがバレたら……あらゆる研究機関で実験台にされたり色々されちゃうだろうね」

「え"」

(色々されちゃうの!? エ〇チなやつとか、安全なモノでお金が沢山貰えたりする系なら……まぁって感じだが、マッドなやつだった場合は余裕でお断りさせていただきます、ハイ)

 と、妄想でニヤニヤしているシセルの隣で──あらゆる研究機関で実験台にされる。という言葉を聞いたルーナが絶望の表情を浮かべる。

「シ、シセルが、実験台に……? もしそうなったらきっと離れ離れに……やだッ! シセルと会えないのやだぁ!」

(──え……俺が実験台にされるまでは良くて、離れ離れになるから嫌なのか。いや、あの……俺は実験台にされるのも嫌なんですが)

「離れ離れと言えば、シセル。あの事伝えなくていいの?」

 絶望しているルーナをスルーして『離れ離れと言えば』などと……──一体どのタイミングでどこから連想しているんだお前は! というツッコミを入れたくなるような鬼畜過ぎるセリフを口に出すレア。

(……ん、あの事? あぁ、アレね! ……なんだっけなぁ、全然思い出せない。えっと、確か──)

「レアが俺を通さないとルーナと会話できないって悩んでるみたいでな。現状……レアと俺が友達、俺とルーナが友達。でも、レアとルーナは友達になれたのか分からなくて気まずいらしい」

「え"っ! そんなコト思っ……てたけど言ってないよねッ!? 伝えて欲しいのはそんな話じゃないよッ!」

 実際に思っていた事を当てられてしまい、慌てるレアに対して──おや、どうやら違ったみたいだ。……などと惚けるシセル。

「へぇ~、そんなコト考えてたんだ。私は別にレアの事はもう友達だと思ってるよ?」

「えっ……そ、そうなの? じ、じゃあ僕にも友達の証を……」

「えっ、流石に私も……『すきすきちゅっちゅ』は普通の友達とするコトじゃないってもう分かってるよ……? シセルとしてるのは、その……シセルの事が好きだからだし。レアが私としたいのって……そういう事?」

「え、いや……そういう事ではないんだけど」

(……ふむ。女の子の方が好きだというレアが、ルーナの事が好きという訳ではないのに『すきすきちゅっちゅ』をしたいと? 俺とルーナの『すきすきちゅっちゅ』を見てしまったせいでレアの変態化が進んでしまっているな。仕方ない、助け舟を出してやるか)

「実は俺、3年後……13歳になったらセントラム学園に入学する予定なんだよね」

「シセル……分かってたなら最初からそっちを言ってよッ!」

 シセルは、そうやってキレているレアから視線を逸らす。

「……いやぁ、今思い出したんだよ。本当に」

「……絶対に嘘だッ!」

「え……それって、貴族の人達が沢山いる学校?」

「そうだな。もし俺がそこの学生になったら、当分は寮の生活になるから……ルーナとはなかなか会えなくなるかもしれないんだ」

 ──嘘だッ! と、強く抗議するレアをガン無視して話を進める二人。

「え、えっ、え! じゃあ、私も……あっ、で、でもそっか……私は平民だから」

 急激に動揺して、冷静さの欠けらも無い姿を晒し始めるルーナ。

「……そこで俺の両親が、セントラム学園の推薦入学者としてルーナを推薦してくれるみたいなんだけど、それでも平民が入学する場合は……ガチで勉強しないと合格できないらしいんだよね」

(ちょっとでもやる気を出して欲しいからルーナには伝えないが、コネ入学はできないらしい。……だから実際は、父の推薦なんて殆ど意味がない)

 ルーナ自身が首席入学者にでもなる事が出来れば、推薦など必要ないのだが……現実的に考えてそれは流石に厳しい。一応ではあるが、都市に対する数々の貢献実績を持っているリオネルの推薦状を添えれば……少しでも合格率が上がるのではないかという”希望的観測”が故の行いであった。

「がちで勉強……」

 シセルが発言した『平民が入学する場合は』という部分を聞いて希望が見えたのか、動揺が収まり……そうボソッっと復唱する。推薦されたという事実より、平民も入学できると知った事でやる気が出てしまう所が実に彼女らしい。

「そう、ガチで勉強。……えっと、ルーナは俺と一緒にセントラム学園に通いたいか?」

「うん、シセルがそこに入学するって言うなら……私もそこに行く」

「そっか。それでさ……俺も貴族として今の立場を守る為にも、学力を上げないといけない訳で……ガチで勉強する必要がある」

「……シセルも?」

「あぁ、だからこれから一緒に入学するまでの間……──俺ん家で一緒に勉強しないか?」

(ハイ、ここで『俺ん家で一緒に勉強しないか?』の童〇卒業させて頂きましたありがとうございまぁ~す! レア、俺はやったぞ……漢を上げる為の第一歩を踏み出してやったぞ!)

「……ねぇ、シセル。それって……なんで私に伝えたの?」

「え? なんでって、それは……」

(……いや、別にそんな理由とかなくね? 仲の良い友達と一緒の学校に行きたいって思うのは普通だし)

「シセルのお母さんやお父さんが私を推薦してくれるって言ってくれたのは凄い嬉しいし、感謝してる……でも、シセルはそれを私に伝えなくたっていいよね? 別に私と恋人になりたい訳でもないんだから」

 わざと表情を見せないようにしているのか、手をお尻の辺りに組んだまま背中をこちらへ向けているルーナ。

「……友達として一緒に居るって約束しただろ」

「ふ~ん、でもそれって……学園に通いながらでもできるよ♪」

「いや……卒業までの長い期間、ずっと寮生活をするワケだから、ルーナとは会えなくなる。そしたら約束を破る事に……」

「平民が入学できる事を教えるだけでイイのに……わざわざ『推薦してくれてる』なんて、私に希望を見せて少しでもやる気を出させようしてまで? 私がそのまま合格できなければ、シセルが約束を破ったっていうより……守ろうとしたけど、そうなっちゃったって言い訳できるよ?」

 その勢いに気圧された彼は、思わず言葉が詰まる。──俺を問い詰める時の語彙力と理解力の限界突破エグすぎね? と、内心落ち着かないシセルは、緊張してゴクリと唾を飲み込む。

「もしかして……学園に通ってる間に、私の気持ちがシセルから離れるかも~とか思った? 私が誰かに取られちゃうんじゃないかとか思った?」

 一言喋る毎に、浮かべているその笑みを深めていくルーナ。その声が……その言葉が耳に入り込む度、徐々にシセルの呼吸は荒くなっていく。

「シセルは……『私を独占したい』って♡……思った?」

 そして、何かを確信するように……魔性の女は、その魅惑の瞳を彼へと向けた。




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