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十七話
しおりを挟む「じゃ、早速始めるね?」
「おっけ~!」
「おっけ~?」
本人は聞き慣れていないであろう『おっけ~』という言葉に首を傾げるルーナ。このままだとシセルは、突然意味の分からない言葉を叫んだ変人となってしまうが……説明してくれようとしてるのを邪魔したくないと考えた彼は、それを敢えてスルーする。
「……シセルは、今どのくらい魔力を扱える? 魔力の感覚を掴める程度とか、魔力を操作できるくらいとか……もう魔法を発動する事まで出来ちゃったりする?」
過去に行われた両親による英才教育には魔法関係のモノもあったが、実技より関連知識を蓄えさせるのがメインで、そのほとんどが資料に基く勉強だった。その為、シセルは現状……魔力操作や魔法に手を付けるなどはまだまだ先の事で、ギリギリ魔力の感覚を掴めるようになった程度で止まっていた。
「魔力の感覚を掴める程度かな……?」
それを聞いたルーナは一瞬だけ思考するような仕草をした後、直ぐにこれからやる事についての説明を始める。
「私は魔力の感覚を掴んだ後、そのまま魔力操作の練習を頑張ったけど……人に教えるって考えたら、そこからよりも魔法を発動する練習と同時にやった方がシセルにも分かりやすいと思う!」
(なるほど。よく分からんが、ルーナがそう言うって事はそうなんだろう……知らんけど)
「でもさ、そもそも……魔法ってどれの事を言うんだ? この間ルーナが水球を生成したようなヤツは魔法だって分かるんだが……魔力操作は魔法に入らないのか? 俺が勉強したというか……俺の知識にあるものと、ルーナが考えている事にどれくらい共通する部分があるか一応確認したい」
すると今度は『う~ん』と唸りながら悩んでいる様子のルーナ。なかなか言葉が出ないのか『う~ん』と言う度にポーズを変えている。
(──なんだかスゴイカワイイです)
「えっと、どこまでが魔力操作で……どこからが魔法なのかっていうと、多分……魔素を変質させないで、そのまま操るのが魔力操作で……別の物質に変えちゃったり、魔素単体にはない別の力を生み出すのが魔法なんじゃないかな? って私は考えてるよ!」
(ふむ。それは概ね前の俺が蓄えた知識にある通りだな。魔素は、人間のように思考力を持つ生物の体内のどこかに存在するされている魂のようなモノ『ソウルオプレティオ』、略して『ソルオプ』と呼ばれる器官によって操ることが出来るとされているらしい)
現在の彼ではなく、記憶を思い出す前のシセルが蓄えた知識なのだが……『ソルオプ』は基本的に魔素集合体である魔物には存在せず、人間や獣人……エルフといった人型種族、魔物と同一視されてはいるが厳密に言えば別物である神獣……という生物辺りには存在している。
「っていうか……なぁ、ソレって母親に教わったりしたの? それとも自宅に魔法関連の書物とかあって読んだりしてた?」
「ううん、ずっと魔法の練習してたら……多分こういう感じなんじゃないかなって」
(──はい、出ましたね。出ちゃってます天才の部分。というか……ここまで来るともはや頭がおかしい。書物に記されるような仕組みを自力で理解してるのはヤバい。それをこんな幼い少女がヤってしまっているという事が尚更エグい)
「じゃあ、魔法の発動の練習を始めるね。まずは、シセルができる所までで良いから……魔力の感覚を掴める辺りまで魔素を感じてみて?」
(うむ、ムズいな。体内のどこにあるのか分からない器官を使用する以上、やはりその辺は個人の感覚に任せるものになってしまうのか)
『ソルオプ』を操る為の感覚など……恐らく、五感に含まれないモノ。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚のどれでもないであろうソレは……一体何覚なのだろうか? 凡人であるシセルでも、魔力の感覚を掴める程度まではイけた様だが……”操る”となると、やはりそれだけでは難しいのだという事が分かる。
「あ”ぁ~……とりあえず、ある程度までは知覚できたぞ」
「おっけ~! じゃあ、そうだなぁ。私が前に作ったような水球をイメージして、そのまま手首辺りに力を入れてみて?」
(いや……『おっけ~』を使いこなしてる事に衝撃なんだが? これについて特に説明をした訳でもないのに当たり前のように口から出てきたんだが?)
突然の事に……関係の無い内容で脳内が圧迫され、ここまで掴めていた感覚がリセットされてしまうシセル。
「シセル?」
「あ、あぁ、分かった」
(ビックリし過ぎて逆に俺が『おっけ~』を使えなくなったわ。そして手首辺りに力を入れるって……魔法ってそんなスポーツ感溢れる発動方法なの?)
シセルはそのままルーナに言われた通りにしてみると、自身の掌の先に空気中の水分が集まるような形で水球が二つ生成される。
「……できた」
「わぁ。初めてなのにデキちゃってる!」
(え、魔法も初めてでデキるのは色々とマズイ事なのか? やはり、初めての場合はしっかりと準備をして事を始めるべk)
「私でも何回かやらないと発動できなかったのに……むむむ」
スムーズに魔法を発動したシセルを見て悔しそうな表情を浮かべるルーナ。
(ふむ、既に魔法関連の知識を持っていたからか?)
と、考えるシセルだが……恐らく、以前にルーナが水球を発動する様子を見ていたというのが大きいだろう。
「しかも、二つなんて……まだ初めてで制御が難しかったとしても大きさが変わるくらいだし、なんでだろ?」
(──確かに。え、なんで? 俺は今、普通に一つのイメージで作ったはずだ。ルーナの水球は一つだった。それを見ていた分……そのイメージに寄っているから二つになるのはマジでおかしい)
自身がどう意識していたとしても、水球が二つ同時に生成される要素など無かった筈なのだ。シセルは怪訝な表情で、既に形を崩した水球によって作られた二つの水溜まりを見詰める。
──すると、少し離れた所でそれを見ていたレアが……何故か驚愕の表情でシセルの居る方へと向かって歩いてきた。
「シ、シシシセル! い、今のって……一回で二つ一気に出たの? 同時にッ? 物凄く早く二回目を発動したとかじゃなくて!?」
「え、そ、そうだけど……なんかマズッた?」
「シセル。魔法は普通……まるで同時かのような速度で一回ずつ発動したり、既に発動してるモノに追加で発動して複数発動に見せかけたりすることは出来るんだけど、複数同時発動は出来ないと言われてるんだ」
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