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第三部 父と子

第12話 帰参①

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 見事に晴れ渡った空だった。どこまでも続く青い空には雲一つない。
 長大な壁のような城壁が見えた時、ああ、王都に来たのだと人は感慨を持つ。

 イルマたちの馬車は南の大門から王都スァンに入り、真っ直ぐに王宮を目指した。
 整備された道には石畳が敷かれ、多くの人々が行き交う。
 平民たちの家々が立ち並ぶ場所を過ぎ、貴族の屋敷街を越えれば、巨大な王宮が見えてくる。
 衛兵が立ち並ぶ宮門の正面が直ちに開かれ、馬車はさらに奥へと向かう。

「着いたよ、イルマ。さあ、行こう」
 シェンバーに手を取られて、イルマは馬車から降りた。目の前の光景に息を呑む。

「シェン! あれ!!」
「出迎えだ」

 目の前には、驚くほどの数の騎士たちが立ち並んでいた。
 正面扉に向かう中央を開けて、左右に整列する彼らは、直立不動で少しの乱れもない。
 前列には白地に金の紋章の近衛騎士団。後列には黒地に金の紋章の第一騎士団、第二騎士団が続く。

 最前列にいたのは白と黒、それぞれの礼装を纏った男たちだ。近衛騎士団長と統轄司令官の二人は、揃って跪いた。

「殿下、お帰りをお待ち申し上げておりました」
「ご快癒を心よりお慶び申し上げます」

「長きに渡る不在で二人には苦労をかけた。すまなかった」
 男たちは頭を垂れ、シェンバーの言葉を深く噛み締めた。

 統轄司令官の指揮で、騎士たちはシェンバーとイルマに向かって跪く。
 シェンバーは、居並ぶ騎士たちを見渡し、静かに呼びかけた。

「我がスターディアの騎士たちよ。女神と王の名のもとに、今日まで民と領土を守ってくれたことに深く感謝する。心から皆を誇りに思う」

 騎士たちの間に喜びの表情が浮かび、歓声がわき起こった。
 シェンバーとイルマはお互いに顔を見合わせる。

『シェンのこと、みんな待ってたんだね』

 イルマが微笑んで囁くと、シェンバーは瞳を瞬いた。耳だけが、ふんわりと赤く染まった。


 騎士たちの盛大な出迎えを受けた後にイルマたちが向かったのは、王族たちが住む西の宮殿だ。
 元々、西の宮殿の一角がシェンバーの居室となっている。
 王族たちが住むと言っても、国王と王妃は本宮殿、王太子は世継ぎの住む東の宮殿で暮らしている。第三王子のミケリアスは、一年の大半を神殿で過ごしていた。

「西の宮殿で顔を合わせる者はほとんどいないから、気楽に過ごしてくれたらいい」
「確か前に来た時は、ここから近い客室にいたんだよね」
「あの時は、イルマたちは賓客扱いだったからな。今は、立場が違う」
「立場⋯⋯」

 シェンバーが頷きながら、イルマの部屋はここだ、と案内する。
 目の前の部屋は、穏やかな白で統一され、調度も洗練された一級品ばかりだった。そして、シェンバーの寝室の隣だ。

 ⋯⋯一体、ここには部屋が幾つあるんだろう?

 第二王子の為に用意された一角は、驚くほど広い。廊下の左右に並ぶ部屋には、それぞれ目的があると言う。しかし、フィスタの王太子であるアレイド王子の部屋だって、こんなに立派でもなければ、部屋数だって多くはない。経済力の違いを痛感する。

「イルマには私の部屋の一つを使ってもらえばいいと思ったんだけど、もっと広い部屋の方がよかった?」
 シェンバーがイルマの顔を心配そうに覗き込む。
「いや、十分です!」
 思わず、声がうわずった。これ以上広い部屋なんて、逆に居心地が悪い気がする。

「もし、イルマがもっとちゃんとした自室が欲しいと思ったら、遠慮せずに言ってほしい。すぐに用意させるから。この部屋は、単に私が⋯⋯」
「私が?」
 珍しく口ごもるシェンバーを見上げると、何やら赤い顔をしている。

「イルマに近くに居てほしいなと思って。それに、やっぱり⋯⋯。伴侶は、一緒に居た方がいい⋯⋯だろう?」

 ぼんっ!とイルマの顔が赤くなった。
 ──は、伴侶だから?
 イルマは、その言葉をとても口に出すことは出来なかった。慣れないし、考えるだけで動悸がする。

「⋯⋯シェンの近くにいるよ。その方が嬉しい」
 思わず小さな声で呟くと、シェンバーの手が伸びてきて、広い胸の中にぎゅっと抱きしめられた。
 
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