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見ていたのは
しおりを挟む離宮からゆっくりとした足取りで出てきたレイドルート。外に出たところで離宮を振り返り、先程の部屋の窓を見つめる。何もないのに。誰もいないのに。そこにいてくれたらと願う気持ちが行動に現れてしまう。そんな様子をまたしても影からじっと見ている者がいた。それは観察でもするように。見られているとは知らず、レイドルートは、自嘲にも似た笑みを浮かべ、またため息をつくと踵を返し離宮から離れていった。離宮は王宮から見える位置にはあるが、それを隔たるように背の高い木々が植えられている。先々代の国王、つまりはレイドルートの祖父が祖母であった王妃の療養の為に建てたものだ。療養の間は王宮が視界に入らないよう、政務の事など気にせずとも良いようにとわざと遮った形としたのだ。無論、王宮側からも見えないようになっている。そこにはただ木々が生い茂っている、そう見えるだけ。木々に囲われた隠された離宮。そこは久しぶりの逢瀬の場と、その主を待ち続けている。
レイドルートが離宮を立ち去った後、影から見ていた者が動いた。その者は王宮のとある場所へ向かう。
「失礼します」
「どうだった?」
「何者かが離宮に滞在されているのではないかと思われます」
「そうなのか」
「えぇ、陛下は離宮から出てくるなり、振り返って一室の窓を見つめておいででした。気付かれてはいけませんから、さすがに中までは様子は伺えませんでしたが、随分と気にされている様子も見えましたし、何より笑みを浮かべていらっしゃいましたから」
「女か・・・」
「可能性はあるかと」
「父上もあの歳で女を連れ込むなどと、まだ盛っていると言うことか」
父。そう、一人は王子であるライモンド。ここはライモンドの私室である。そしてここに報告に訪れたのはライモンドの側近であるリチャード。ライモンドはたまたま通りがかった所で、離宮へと向かう国王レイドルートを目撃していた。レイドルートが時折離宮へ足を運んでいたのは知っていたが、先程はいつもと随分と様子が違って見えた。リチャードに監視を頼んでいたのだ。
「ライ・・・」
「ミレーヌ、どうしたんだ?」
「それって本当に陛下のお相手なの?」
「そうだな・・・だが、まだ女だと決まったわけでもない。それに・・・俺には可愛い可愛いミレーヌがいるのだからな?」
「・・・ライ」
「ミレーヌ。不安なようだな、その不安を消してやろう」
「どうやって?」
ふっと柔らかな笑みを浮かべたライモンドに、ミレーヌは小首を傾げて見せた。
「こうするんだ」
「きゃっ!ライっ、あっ、ああぁぁっ!」
目の前でまた、飽きもせず再度からみはじめた二人。報告の間も寝台の上でシーツを巻き付けていただけの姿だった。数日前に繋がったばかりの二人。味をしめたのか二人は時も気にせず寝室に籠りっきりだ。子ができてしまうのも時間の問題だろうと、呆れながらリチャードは静かに部屋を後にした。
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