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3・偽りの学園生活

3-20・諦観と虚無

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 夜に王宮へと帰った時、ティアリィは再度ミスティに釘を刺すことになった。
 何せミスティがリアラクタ嬢を快く思っていないことは明白で、何かしでかすのではないかという危惧が拭い去れなくて。
 だからと言って、なぜ俺はこんな体勢でいるのだろうか、と思わなくは、無い。
 いつも通りに夕食を済ませ、ピオラやミデュイラ嬢たちが寝支度を整えだすのを見届けてから俺は王宮へと転移した。
 顔を見ると途端、飛びついてくるコルティを抱き上げたまま、アーディやグローディ、あるいは他の文官数人と伝達事項や打ち合わせ、仕事の確認などを済ませる。いつの間にかミスティの気配が近づいてきていたのには気づいていながら無視をして、コルティを寝かしつけ、だが、そこで結局捕まってしまった。
 今日は俺も話したいと思っていたから、都合がいいと言えば都合がいい。
 だが、そうは言っても。この体勢は、無いとは思う。
 ミスティの私室、応接スペースのソファの上、膝の上に、向かい合わせに乗せられているだなんて。
 服こそ来ているものの、まるで情事の最中のような近さである。
 心臓がバクバクして、頬が熱くなって居た堪れない。
 お昼ぶり。つまりは決して長く見ていなかったというわけではないのに、ミスティの奇麗な顔を至近距離で目にするだけで、ティアリィはもう駄目だった。
 それでも辛うじて、リアラクタ嬢のことについてだけの釘刺しは済ませる。

「彼女に、何かはしないでください、ね……」

 なんて、力なく、途切れがちにはなってしまったけれど。
 ミスティはくすと笑って色気たっぷりに、ティアリィの耳朶へと唇を寄せた。

「わかっているだろう? ティーア。それは君次第だよ」

 吹き込まれた息は甘く掠れ、その上、魔力まで乗っていた。

「ぁっ……」

 ぞくんと、背筋を快感の兆しが走り抜ける。
 僅かな魔力であったとしても、乗せられるともうダメで、頭がくらりと揺れる気がした。
 そんな場合じゃないのに。もっとちゃんと話がしたいのに。

「ティーア」

 囁かれるティアリィの名前、注がれる獣のような眼差し。

「ミーシュ……」

 求められたくちづけを、どうして受けずにいられただろうか。
 高鳴る鼓動が抑えられない。

「ぁっ、ん、んんっ……」

 キス一つだって気持ちがいい。
 口内を探る舌は慣れたミスティのもので、いつだってティアリィを酩酊へと導いていく。

「ぁっ!」

 やはり魔力の乗った指先で腰に触れられ、ビクン、震えた後は、全身から力が抜けていく。

「ぁっ、ぁっ、んんっ……ぁん」

 全身をミスティに預けきり、息を荒げて為すがままの蕩け始めたティアリィは、これはもう今日、これ以上の話などできないなと諦める。
 色々と話したいことがある。ミスティに伝えておかなければいけないことも。だけど。

「ティーア」

 こんな、触れ合いでティアリィのしたいことを全て押し流してしまうなんて。それはいつも通りのミスティで、だからこそティアリィの胸に去来した諦観と虚無は、拭い去れるものではなくなっていくのである。
 ミスティのことは好きなのだ。恋をしている。嫌いではない。
 だけど。
 許せることと許せないことがあって、変わらないミスティには時折、ティアリィがやるせなさしか抱けなくなるだけだった。
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