1,620 / 1,942
期待に応えたい (〃)
しおりを挟む
記憶喪失の人魚とは、またとんでもないものと出会ってしまったな。可愛いからいいけど。
「少しずつ記憶遡っていくのはどうかな。荒凪くん、ここに来る前は何してたの? 車乗った? 電車と歩き?」
「……くゅま」
「ンッッッ」
「ミツキ? どうした」
「美少年の舌っ足らずに心臓が止まりかけてるんだろ」
流石セイカ。俺のことをよく分かっている。
「こういう時は心臓マッサージだ」
おや? 流れ変わったな。はぁ全く我らがハーレム主はしょうがないヤツだなぁ、とみんなから呆れた目を向けられるヤツでは? 蔑むような目に興奮出来るチャンスだと思ったのに。
「胸を押せばいいのか?」
「もう一度衝撃を与えるんだ。秋風、ちょっと」
セイカはアキに何やら耳打ちをする。不安そうに俺とセイカを交互に見ているサキヒコとは逆に、アキは笑顔で頷いて俺に顔を寄せた。
「にーにぃ、だいすきー」
「ヒュッ……」
「鳴雷の心臓は美少年で止まるから、美少年で衝撃を与えて動かすといい。もちろん秋風レベルの美形じゃなくても大丈夫だから、お前らも安心して鳴雷に求愛してやれ」
「ワシには追い打ちに見えるんじゃが」
ミタマ、正解。
「ふぅ……第三の心臓がなければ死んでいた」
「ビールかよ」
トントンと軽く胸の辺りを叩き、会話を戻す。荒凪に過去のことを聞いてみるのだ。
「荒凪くん、車には誰と乗ったか覚えてる?」
「まひろぉー……と、知らないひと」
「知らない人?」
「運転手じゃないのか、免許持ってないとか言ってただろ」
「なるほど。どこから車で来たの?」
「……? 知らない……」
多分母が勤めている会社の地下で一時的に保護されていたと考えていたのだが、荒凪には分からないか。
「ビル?」
「びりゅ……?」
「あー、じゃあ、秘書さん……えー、まひろ? さんと会う前は何してたの?」
「まひろぉ、の、前……水のなか」
「水槽に居たんだね、その前は? 水槽に入る前、海とかに居た?」
養殖なら生簀だろうか。っと、魚として考え過ぎているな。人魚じゃないかもしれないという話だ、水に関係すらしていないかもしれない。
「……部屋に、いた」
「部屋? どんな部屋?」
「白い……へや。かべひとつ、鏡」
部屋の壁がスタンダードに四面だとして、そのうちの一面は鏡張りだったということか?
「鳴雷、なんでそんなに思い出させたがるんだよ」
「…………あの人、俺に期待してくれてた。荒凪くんと絶対仲良くなれるって。その上荒凪くんの過去を暴けちゃったら、俺すっごく褒められると思うんだよね」
「そんな理由かよ……」
セイカは呆れた顔だが、何も秘書がセクシーな美青年だから言っている訳ではない。超絶美形な上頭が良くて、器用で何でも人並み外れて出来て、人間としても尊敬出来る……そんな母の息子だから、俺にはずっと劣等感がある。手料理を彼氏に振る舞って「美味しい」と言ってもらえても、笑顔で礼を言いながら「でも母さんの方が美味しいの作れるからなぁ」とどこかで考えている。ルックス以外の何の才能も受け継げなかった自分が、彼氏の褒め言葉すら心の全てで喜べない自分が、嫌いだ。
「うん。そんな理由。しょぼい?」
だから、秘書が母に本音を隠して俺に期待してくれたことが、嬉しかった。母には出来ないけれど俺には出来ることなんて、ないと思っていた。せいぜいちんちんシャンプーボトルチャレンジくらいだろう。荒凪を託されたのは母じゃない、俺だ。俺が頼られた、俺が期待された、こんなの初めてだ。胸が高鳴る。重圧に肺が縮む。
「しょっぼい。クソみたいな理由」
「ははは……ま、そういうヤツじゃん俺って」
荒凪を口説くのは秘書の本音を聞く前から心に決めていた。期待に応えるというのは、期待を聞かされる前からやるつもりだったことだけでは不十分に思える。だから、荒凪の正体を探りたい。たくさん証拠を集めて伝えて彼の期待を超える働きがしたい。社会的地位の高い彼に認められたらきっととても気持ちいい。
「白いへや、人来て……僕達、ふくょ、入れらぇて……はこばれ、て、水のなか入った」
「……袋に入れられて運ばれた?」
「繁殖場からペットショップへの移送って感じか」
荒凪の表現力の問題かもしれないが、とても丁寧に扱われていたとは思えない。
「部屋の前は分かる?」
荒凪は黙って首を振った。いい思い出ではなさそうだし、今日のところはここまでにしておこうか。色々話したり経験したりしていく中で何かがきっかけになって、色々思い出していくかもしれない。
「……そっか。じゃ、この話はもう終わりね。遊ぼっか、あやとりとかどう? 指動かす練習になるよね」
「ワシあやとり得意じゃぞ」
「ホントっ? ぽいと思ってたよ」
「見た目で得意そうなもんはだいたい得意じゃ」
「毛糸とってくるから待ってて」
「私もやりたい、私の分も頼むぞミツキ」
彼氏達を置いて部屋を出る。毛糸含む手芸道具や材料は自室に置いてあるので、小走りで向かう。途中、スマホを取り出しメッセージアプリを立ち上げる。
(重瞳のことと……秘書さんは荒凪くんは水槽で目覚める前のこと覚えてないと言ってましたから、その前の鏡がある部屋については聞いてないのかも。そちらも報告しておきましょう)
荒凪についての報告を秘書に送信。続けてネイとのチャットを開く。
『日本神秘の会についての情報が少し手に入りました』
とだけ送信。自室に入り、毛糸を収納している箱を探った。
「少しずつ記憶遡っていくのはどうかな。荒凪くん、ここに来る前は何してたの? 車乗った? 電車と歩き?」
「……くゅま」
「ンッッッ」
「ミツキ? どうした」
「美少年の舌っ足らずに心臓が止まりかけてるんだろ」
流石セイカ。俺のことをよく分かっている。
「こういう時は心臓マッサージだ」
おや? 流れ変わったな。はぁ全く我らがハーレム主はしょうがないヤツだなぁ、とみんなから呆れた目を向けられるヤツでは? 蔑むような目に興奮出来るチャンスだと思ったのに。
「胸を押せばいいのか?」
「もう一度衝撃を与えるんだ。秋風、ちょっと」
セイカはアキに何やら耳打ちをする。不安そうに俺とセイカを交互に見ているサキヒコとは逆に、アキは笑顔で頷いて俺に顔を寄せた。
「にーにぃ、だいすきー」
「ヒュッ……」
「鳴雷の心臓は美少年で止まるから、美少年で衝撃を与えて動かすといい。もちろん秋風レベルの美形じゃなくても大丈夫だから、お前らも安心して鳴雷に求愛してやれ」
「ワシには追い打ちに見えるんじゃが」
ミタマ、正解。
「ふぅ……第三の心臓がなければ死んでいた」
「ビールかよ」
トントンと軽く胸の辺りを叩き、会話を戻す。荒凪に過去のことを聞いてみるのだ。
「荒凪くん、車には誰と乗ったか覚えてる?」
「まひろぉー……と、知らないひと」
「知らない人?」
「運転手じゃないのか、免許持ってないとか言ってただろ」
「なるほど。どこから車で来たの?」
「……? 知らない……」
多分母が勤めている会社の地下で一時的に保護されていたと考えていたのだが、荒凪には分からないか。
「ビル?」
「びりゅ……?」
「あー、じゃあ、秘書さん……えー、まひろ? さんと会う前は何してたの?」
「まひろぉ、の、前……水のなか」
「水槽に居たんだね、その前は? 水槽に入る前、海とかに居た?」
養殖なら生簀だろうか。っと、魚として考え過ぎているな。人魚じゃないかもしれないという話だ、水に関係すらしていないかもしれない。
「……部屋に、いた」
「部屋? どんな部屋?」
「白い……へや。かべひとつ、鏡」
部屋の壁がスタンダードに四面だとして、そのうちの一面は鏡張りだったということか?
「鳴雷、なんでそんなに思い出させたがるんだよ」
「…………あの人、俺に期待してくれてた。荒凪くんと絶対仲良くなれるって。その上荒凪くんの過去を暴けちゃったら、俺すっごく褒められると思うんだよね」
「そんな理由かよ……」
セイカは呆れた顔だが、何も秘書がセクシーな美青年だから言っている訳ではない。超絶美形な上頭が良くて、器用で何でも人並み外れて出来て、人間としても尊敬出来る……そんな母の息子だから、俺にはずっと劣等感がある。手料理を彼氏に振る舞って「美味しい」と言ってもらえても、笑顔で礼を言いながら「でも母さんの方が美味しいの作れるからなぁ」とどこかで考えている。ルックス以外の何の才能も受け継げなかった自分が、彼氏の褒め言葉すら心の全てで喜べない自分が、嫌いだ。
「うん。そんな理由。しょぼい?」
だから、秘書が母に本音を隠して俺に期待してくれたことが、嬉しかった。母には出来ないけれど俺には出来ることなんて、ないと思っていた。せいぜいちんちんシャンプーボトルチャレンジくらいだろう。荒凪を託されたのは母じゃない、俺だ。俺が頼られた、俺が期待された、こんなの初めてだ。胸が高鳴る。重圧に肺が縮む。
「しょっぼい。クソみたいな理由」
「ははは……ま、そういうヤツじゃん俺って」
荒凪を口説くのは秘書の本音を聞く前から心に決めていた。期待に応えるというのは、期待を聞かされる前からやるつもりだったことだけでは不十分に思える。だから、荒凪の正体を探りたい。たくさん証拠を集めて伝えて彼の期待を超える働きがしたい。社会的地位の高い彼に認められたらきっととても気持ちいい。
「白いへや、人来て……僕達、ふくょ、入れらぇて……はこばれ、て、水のなか入った」
「……袋に入れられて運ばれた?」
「繁殖場からペットショップへの移送って感じか」
荒凪の表現力の問題かもしれないが、とても丁寧に扱われていたとは思えない。
「部屋の前は分かる?」
荒凪は黙って首を振った。いい思い出ではなさそうだし、今日のところはここまでにしておこうか。色々話したり経験したりしていく中で何かがきっかけになって、色々思い出していくかもしれない。
「……そっか。じゃ、この話はもう終わりね。遊ぼっか、あやとりとかどう? 指動かす練習になるよね」
「ワシあやとり得意じゃぞ」
「ホントっ? ぽいと思ってたよ」
「見た目で得意そうなもんはだいたい得意じゃ」
「毛糸とってくるから待ってて」
「私もやりたい、私の分も頼むぞミツキ」
彼氏達を置いて部屋を出る。毛糸含む手芸道具や材料は自室に置いてあるので、小走りで向かう。途中、スマホを取り出しメッセージアプリを立ち上げる。
(重瞳のことと……秘書さんは荒凪くんは水槽で目覚める前のこと覚えてないと言ってましたから、その前の鏡がある部屋については聞いてないのかも。そちらも報告しておきましょう)
荒凪についての報告を秘書に送信。続けてネイとのチャットを開く。
『日本神秘の会についての情報が少し手に入りました』
とだけ送信。自室に入り、毛糸を収納している箱を探った。
0
お気に入りに追加
1,213
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。
ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。
だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。
小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる
海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?
犬用オ●ホ工場~兄アナル凌辱雌穴化計画~
雷音
BL
全12話 本編完結済み
雄っパイ●リ/モブ姦/獣姦/フィスト●ァック/スパンキング/ギ●チン/玩具責め/イ●マ/飲●ー/スカ/搾乳/雄母乳/複数/乳合わせ/リバ/NTR/♡喘ぎ/汚喘ぎ
一文無しとなったオジ兄(陸郎)が金銭目的で実家の工場に忍び込むと、レーン上で後転開脚状態の男が泣き喚きながら●姦されている姿を目撃する。工場の残酷な裏業務を知った陸郎に忍び寄る魔の手。義父や弟から容赦なく責められるR18。甚振られ続ける陸郎は、やがて快楽に溺れていき――。
※闇堕ち、♂♂寄りとなります※
単話ごとのプレイ内容を12本全てに記載致しました。
(登場人物は全員成人済みです)
ポチは今日から社長秘書です
ムーン
BL
御曹司に性的なペットとして飼われポチと名付けられた男は、その御曹司が会社を継ぐと同時に社長秘書の役目を任された。
十代でペットになった彼には学歴も知識も経験も何一つとしてない。彼は何年も犬として過ごしており、人間の社会生活から切り離されていた。
これはそんなポチという名の男が凄腕社長秘書になるまでの物語──などではなく、性的にもてあそばれる場所が豪邸からオフィスへと変わったペットの日常を綴ったものである。
サディスト若社長の椅子となりマットとなり昼夜を問わず性的なご奉仕!
仕事の合間を縫って一途な先代社長との甘い恋人生活を堪能!
先々代様からの無茶振り、知り合いからの恋愛相談、従弟の問題もサラッと解決!
社長のスケジュール・体調・機嫌・性欲などの管理、全てポチのお仕事です!
※「俺の名前は今日からポチです」の続編ですが、前作を知らなくても楽しめる作りになっています。
※前作にはほぼ皆無のオカルト要素が加わっています、ホラー演出はありませんのでご安心ください。
※主人公は社長に対しては受け、先代社長に対しては攻めになります。
※一話目だけ三人称、それ以降は主人公の一人称となります。
※ぷろろーぐの後は過去回想が始まり、ゆっくりとぷろろーぐの時間に戻っていきます。
※タイトルがひらがな以外の話は主人公以外のキャラの視点です。
※拙作「俺の名前は今日からポチです」「ストーカー気質な青年の恋は実るのか」「とある大学生の遅過ぎた初恋」「いわくつきの首塚を壊したら霊姦体質になりまして、周囲の男共の性奴隷に堕ちました」の世界の未来となっており、その作品のキャラも一部出ますが、もちろんこれ単体でお楽しみいただけます。
含まれる要素
※主人公以外のカプ描写
※攻めの女装、コスプレ。
※義弟、義父との円満二股。3Pも稀に。
※鞭、蝋燭、尿道ブジー、その他諸々の玩具を使ったSMプレイ。
※野外、人前、見せつけ諸々の恥辱プレイ。
※暴力的なプレイを口でしか嫌がらない真性ドM。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
変態村♂〜俺、やられます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。
そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。
暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。
必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。
その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。
果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる