冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

文字の大きさ
1,619 / 2,304

おかあさん、誰? (〃)

しおりを挟む
荒凪をお姫様抱っこで運搬。ダイニングテーブルの真ん中には大皿に盛られた大量のおにぎり。

「あら、勘がいいわね。そろそろ呼ぼうかと思ってたのよ」

大きなソーセージが人数分並べられた皿が盛られたおにぎりの隣に置かれる。

「なんか……いつもと違うね?」

「あのバカが来てたから手の込んだもの作る暇がなくてね。荒凪くん食器持てないみたいだし、おにぎりにしようと思って握りながら話してたのよ」

ソーセージには棒が刺さっている、箸やスプーンは必要なさそうだ。

「中何か入ってるの? タラコ漏れてるヤツあるけど……どれが何?」

「分かんないわよ。店じゃあるまいし種類ごとに並べたりしてないわ。アンタらが嫌いな物は入れてないから適当に食べなさい」

早速おにぎりを一つ取り、齧る。唐揚げ入りだ。

「荒凪くん、食べていいんだよ」

セイカもアキも各々手を伸ばしておにぎりを取っていたが、荒凪が全く動いていなかったので俺が一つ取ってやった。

「…………」

荒凪はこくりと頷いておにぎりを受け取り、かぶりついた。

「知らない子ね、水月くんの友達?」

義母がおにぎりを頬張りながら荒凪を見て言う。

「私の上司の親戚の子、都合が悪くて面倒見れないらしくて預かってるのよ」

「へぇー……夏休みなら分かるんだけど、夏休み明けにって変ね」

「色々あるのよ。葉子はあんまり話しかけないであげてね」

「え? なんで?」

「色々難しい子なのよ」

妖怪だの怪異だのという話が出来ないのは分かるが、それで押し切れるのか?

「分かった。別に興味ないし……そっとしとく」

押し切れたわ。

「あのインナーカラー、綺麗ね。そのくらい話してもいいでしょ? 唯乃となら」

「荒凪くんにじゃないならいいわよ」

「不思議な色~、海みたいね。インナーカラーってちょっと憧れあるかも」

深い海のような静かな青、水中から見る陽光のような神聖さ、海面の飛沫のような煌めき、全てを宿した不思議な髪。色が一定ではないのは見る角度によって違うからだろうか、髪の内側に海を映しているなんて言われても納得は出来る。

「…………み、つき?」

髪をひと房持ち上げてインナーカラーを眺めていた俺を、いい加減に不審に思ったのか荒凪がこちらを向いた。その頬や顎は米粒だらけだ、見れば指にもついている。

「ふふっ……どうすればそんなにご飯粒ついちゃうの。海苔のところ持つんだよ? そうすれば少なくとも手は汚れないと思うんだけどなぁ」

米粒を全て取ってやったら、二つ目を渡す。まだ身体が上手く動かせないだけとはいえ、無表情で大人しい彼が大口を開けておにぎりに食らいつくのは何だか面白い。

「ん……」

荒凪は俺のアドバイス通り海苔の部分を持ってはいたが、かぶりつくと形が崩れ、おにぎりが半分に割れた。なるほど、海苔一枚を真ん中に巻いてあるだけだから割れてしまうと両側を支えるために米の部分を持たなければならないんだな、それで指まで米粒まみれだったのか。

(中身入りのおにぎりですから割れやすいのは分かるんですが……割れませんよな、全然。わたくしのだけでなく、セイカ様も秋きゅんも鈍臭い葉子さんも割ってませんぞ)

一口齧っただけでおにぎりの形を崩してしまうのは、不器用だとかそういう問題なのだろうか。

「…………?」

荒凪は俺達のように食べられないのを不思議がりながら、手のひらについた米粒をぺろぺろ舐めた。これは育て甲斐がありそうだ。



昼食を終え、皿を洗う。大皿二つだけだから今回は楽だ。

「……みつきー?」

よたよたと荒凪がキッチンにやってきた。秘書が帰った時、玄関まで追っていたのを思い出し、まるで母親を追いかける子供のようだと笑みが零れた。

「すぐ終わるから待ってて。歩き回っちゃ足痛いだろ? 座ってなよ」

荒凪はダイニングに戻らず、じっと俺を見つめている。好感度はかなり高そうだ、口説くのもそれほど難しくないかもしれない。

「よし、終わった。おまたせ荒凪くん。アキの部屋戻ろっか」

かけてあるタオルに手を伸ばす。荒凪が俺の手を握る。

「あっ、まだ手濡れてる……」

言い終わるが早いか荒凪の手に水掻きが生え、爪が伸びてくる。慌てて顔を上げるも、彼の肌は人らしい赤みが差したもので、耳も人間のもののまま、ヒレなどは生えていない。

「……濡れたとこだけ人魚に戻るんだね。こんなちょっとの水分でこの範囲かぁ、気を付けないと」

タオルを取り、荒凪の手を拭くと水掻きは消えていた。長く黒く鋭い爪がボロリと落ち、桜貝のような人間の爪がその下から出てきた。

「鱗とか爪とか入れておく袋作っておいた方がよさそうだね。結構鋭いしビニール一枚じゃ不安だな……」

「みつき」

「ん、大丈夫だよ。行こうか」

とりあえずビニール袋に爪を入れ、俺も手を拭いて荒凪の手を取る。

「……だ、れ?」

「ん?」

荒凪のもう片方の手は母と義母を指している。人を指差すのはよくないと手を下ろさせ、簡単に回答する。

「俺のお母さんとアキのお母さんだよ」

「おかーさん……?」

「そうそう。さ、部屋に戻ろう」

アキとセイカはとっくに部屋に戻っている。荒凪の手を引き、二人を追った。

「……そういえば、荒凪くんのお母さんは?」

「おかーさん……」

荒凪は確か、水槽で目覚める以前の記憶がないんだっけ? その水槽というのは競売の際に使われた物だろうか。

「妖怪に親なんか居るのか?」

ノートパソコンを立ち上げながらセイカは視線も寄越さずそう言った。

「何の話題か知らないけど」

「荒凪くん、ほとんど記憶ないって言ってただろ? 生まれた時のことが分かれば荒凪くんが本当に人魚かどうかの手がかりになるかもじゃん。だから聞いてみた」

「ふーん……荒凪の顔見るに、ハズレだったみたいだな」

「荒凪くんは常にこういう顔だよ」

丸い目を見開いて、真っ直ぐ前を見つめている。話を聞いていないようにも、言葉を理解していないようにも見える絶妙な無表情だ。

「年積……ぁー、ややこしいな……下の名前で呼ぶぞ? いいな? よし。サキヒコは親居るよな、死んだ人間ってだけだし。分野は?」

「強いて言うなら彫った人間じゃな、付喪神としての意識が芽生えるのは制作から百年くらい経った後じゃから、顔も知らんが」

「……狛犬とかってどこも似たような感じだよな、工場生産品じゃねぇのか」

「そうなるとワシの親は工場長になるのか、機械になるのか、職員の誰かなのか……」

「狛犬ならともかく狛狐ってちょっとマイナーだし、何百年も前に工場立ってるとは思えないけどなぁ」

「ま、何にしろ分野には制作者が居るってことだな。荒凪だが……水槽内に自然発生するなんていくら何でも納得出来ない、マジで記憶喪失してて、親人魚が居るか制作者が居るかどっちかって話だな」

「だよねぇ、荒凪くん覚えてない?」

荒凪は首を横に振った。秘書の調査を待つしかないのだろうか、俺ももう少し手柄を立てて彼の期待に大きく応えてみたいものだ。
しおりを挟む
感想 530

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

四天王一の最弱ゴブリンですが、何故か勇者に求婚されています

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
「アイツは四天王一の最弱」と呼ばれるポジションにいるゴブリンのオルディナ。 とうとう現れた勇者と対峙をしたが──なぜか求婚されていた。倒すための作戦かと思われたが、その愛おしげな瞳は嘘を言っているようには見えなくて── 「運命だ。結婚しよう」 「……敵だよ?」 「ああ。障壁は付き物だな」 勇者×ゴブリン 超短編BLです。

処理中です...