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静かな待ち合わせ場所
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歯磨きを始めとした寝支度を整え、昨日と同じように二人に腕枕をする。アキは背に優しく手を添えるだけ、セイカは頭を撫でてやる。そうすれば二人はリラックスし、うとうととし始める。
「そういえばさ……鳴雷」
「ん?」
「帰ってきたらベッド綺麗になってたし、タオル新しいのになってたし、クマがお茶してたし……ホテルの人入ってるんだよな。じゃあ……三人で泊まってるのにベッド二つ使った形跡がないって、なんかさ、思われてるかな……」
「……一人だけ雑なヤツが居るなってくらいじゃないかな?」
不審がられるのを嫌って別々に寝るなんて言い出されたくないので誤魔化してみる。
「絶対俺じゃん……手ぇないからシーツ綺麗に敷けないとか言われてる……外出る時とかもヒソヒソされてる……」
「あっ、ないないないって! こんなホテルでそんな陰口叩いてたら、他の従業員が「先輩こんなこと言ってた~」とかネットに晒すだろうし」
「怖い世界だな……」
「ごめんごめん変なこと言って、何も思われてないって多分」
「そうかなぁ……」
「そもそも何か言われてても別に聞こえなきゃどうでもよくない? 知らないことは存在しないんだよ」
「…………そう考えられるようになりたいなぁ」
俺もそう思う。言ってはみたものの、俺だってやっぱり陰口は気になる。二度と会うことのない人達だとしても。
「俺もマスターは出来てない。お互い頑張っていこう。おやすみ、セイカ」
「おやすみ……鳴雷、秋風も」
「うん。アキ、おやすみ」
「おやすみー、です。にぃに、すぇかーちか」
眠そうな声での返事に満足した俺は二人を抱き締めて目を閉じた。翌朝、俺はまた腕の痺れに悩まされた。
「腕どうかしたのか? だから腕枕不安だったんだよ……」
「ちょっと痺れただけだよ、朝ご飯までには治るって。昨日もそんな感じだったし」
「ならいいけど」
幸せな痺れの残る腕を揉み、回し、後は自然に治まるのを待とうと朝支度を始めた。
「ミツキ、後頭部やや右に寝癖だ。もう少し上……そう、そこだ」
「ありがとうサキヒコくん、鏡二個使わなくてよくて助かるよ」
「寝癖と、その温風を出す機械で作った跳ねた髪……何が違うのか私には分からん。どちらもだらしない」
「サキヒコくんおかっぱだもんね。計算されたこの……くりんってなった前髪! これが現代の理想的な髪型だよ」
「だらしない」
容赦がない。サキヒコにとっては真っ直ぐな髪が理想らしい。
「ん……? でも、サキヒコくんのご主人様……ツザメさんだっけ、サキヒコくんの記憶で若い頃見たけど……あの人ネザメさんみたいにふわふわ天パじゃなかった? あれはだらしなくないの?」
「主様は生まれつきあのような髪質だ、それが間違っていたりだらしなかったりする訳ないだろう」
訂正しよう、年積一族にとって最も尊いのは紅葉一族らしい。
「鳴雷~、準備出来たか?」
「……っと、また後でねサキヒコくん。終わったよ~!」
「遅ぇんだよお前……また髪型変えたか?」
「この服にはこの髪型なんだよ」
と、母に教わった。
「ふーん……どうでもいいけど、秋風が腹減ったってうるさいから早く行こうぜ」
朝食は昨日と同じくバイキング、テディベアは部屋に置いて昨日と同じように食事を楽しんだ。今日のデザートは複数種あるプチケーキだったので、食事は控えめにしてケーキを堪能した。
「今日も霞染とだよな。居るかな、えっと、コンだっけ?」
「コンちゃん? そうそうミタマくん、金髪糸目美少年。居たら教えて」
朝食の後は部屋に戻って、膨れた腹が落ち着いてきたらハルとの待ち合わせ場所に向かった。昨日とは場所が違う。
「なんか、この辺……人気ないな」
「な」
観光客はあまり入ってこないのだろう住宅地を進み、小さな公園の前へ。
「みっつ~ん!」
本当に待ち合わせ場所はここだっただろうかと不安になり、スマホを確認しようとしたその時、元気な声が聞こえた。顔を上げればハルがぶんぶんと手を振りながらこちらに走ってきている。
「みっつん褒めて褒めて、今日は姉ちゃん達に見つからずに家出られたし、着いてこられなかった!」
「そうか! いやぁ助かる、ハルには悪いんだけど俺本当にハルのお姉さん達苦手でさ……」
「俺に悪いとか思わなくていいよ~、俺と姉ちゃん達だけの時は普通に楽しいいい姉ちゃんなんだけどさ~……みっつん絡むと途端に、はぁ……」
「お前の顔のせいか」
「そうだな……俺の顔があまりにも良過ぎるから」
「ホントに顔良過ぎるから冗談か本気か分かんないんだけど~」
くすくすと笑っているハルの着ている服は昨日の二百万はするだろうという着物ではない、金魚が泳いでいる涼し気な柄だ。
「ハル、今日の着物は昨日のとは違うんだな。それもやっぱりバカ高いのか?」
「もぉやだみっつん、これ着物じゃなくて浴衣~。カッコつけて小紋にしたけどやっぱり夏に着ると暑かったからね~、浴衣にしてきたの。浴衣ならさっと着れるから姉ちゃんに見つかりにくいしぃ~」
「……そうなのかー」
着物の種類は小物は和装キャラが出てくる作品にハマったことがあるので分かっているつもりだったが、オタク知識も使わなければ錆び付いてくるものらしい、最近は和装キャラのぬいぐるみやその服を作ったりしていないのですっかり知識が失われている。資料として和服についての本を買ったから、読み返せばすぐに思い出せるはずなのだが……ハルから断片的に用語を聞くだけでは俺の記憶の扉は開かない。
「みっつん分かってなくな~い? 別にいいけど~……んっ?」
楽しげに笑っていたハルが目を丸くする。俺と同じく鈴の音が聞こえたのだろう、よく通るのに大きくないその音は人の注意を引きつける。
「お待たせなのじゃ」
鈴の音が止んだ直後、ミタマがぬっと姿を現した。
「そういえばさ……鳴雷」
「ん?」
「帰ってきたらベッド綺麗になってたし、タオル新しいのになってたし、クマがお茶してたし……ホテルの人入ってるんだよな。じゃあ……三人で泊まってるのにベッド二つ使った形跡がないって、なんかさ、思われてるかな……」
「……一人だけ雑なヤツが居るなってくらいじゃないかな?」
不審がられるのを嫌って別々に寝るなんて言い出されたくないので誤魔化してみる。
「絶対俺じゃん……手ぇないからシーツ綺麗に敷けないとか言われてる……外出る時とかもヒソヒソされてる……」
「あっ、ないないないって! こんなホテルでそんな陰口叩いてたら、他の従業員が「先輩こんなこと言ってた~」とかネットに晒すだろうし」
「怖い世界だな……」
「ごめんごめん変なこと言って、何も思われてないって多分」
「そうかなぁ……」
「そもそも何か言われてても別に聞こえなきゃどうでもよくない? 知らないことは存在しないんだよ」
「…………そう考えられるようになりたいなぁ」
俺もそう思う。言ってはみたものの、俺だってやっぱり陰口は気になる。二度と会うことのない人達だとしても。
「俺もマスターは出来てない。お互い頑張っていこう。おやすみ、セイカ」
「おやすみ……鳴雷、秋風も」
「うん。アキ、おやすみ」
「おやすみー、です。にぃに、すぇかーちか」
眠そうな声での返事に満足した俺は二人を抱き締めて目を閉じた。翌朝、俺はまた腕の痺れに悩まされた。
「腕どうかしたのか? だから腕枕不安だったんだよ……」
「ちょっと痺れただけだよ、朝ご飯までには治るって。昨日もそんな感じだったし」
「ならいいけど」
幸せな痺れの残る腕を揉み、回し、後は自然に治まるのを待とうと朝支度を始めた。
「ミツキ、後頭部やや右に寝癖だ。もう少し上……そう、そこだ」
「ありがとうサキヒコくん、鏡二個使わなくてよくて助かるよ」
「寝癖と、その温風を出す機械で作った跳ねた髪……何が違うのか私には分からん。どちらもだらしない」
「サキヒコくんおかっぱだもんね。計算されたこの……くりんってなった前髪! これが現代の理想的な髪型だよ」
「だらしない」
容赦がない。サキヒコにとっては真っ直ぐな髪が理想らしい。
「ん……? でも、サキヒコくんのご主人様……ツザメさんだっけ、サキヒコくんの記憶で若い頃見たけど……あの人ネザメさんみたいにふわふわ天パじゃなかった? あれはだらしなくないの?」
「主様は生まれつきあのような髪質だ、それが間違っていたりだらしなかったりする訳ないだろう」
訂正しよう、年積一族にとって最も尊いのは紅葉一族らしい。
「鳴雷~、準備出来たか?」
「……っと、また後でねサキヒコくん。終わったよ~!」
「遅ぇんだよお前……また髪型変えたか?」
「この服にはこの髪型なんだよ」
と、母に教わった。
「ふーん……どうでもいいけど、秋風が腹減ったってうるさいから早く行こうぜ」
朝食は昨日と同じくバイキング、テディベアは部屋に置いて昨日と同じように食事を楽しんだ。今日のデザートは複数種あるプチケーキだったので、食事は控えめにしてケーキを堪能した。
「今日も霞染とだよな。居るかな、えっと、コンだっけ?」
「コンちゃん? そうそうミタマくん、金髪糸目美少年。居たら教えて」
朝食の後は部屋に戻って、膨れた腹が落ち着いてきたらハルとの待ち合わせ場所に向かった。昨日とは場所が違う。
「なんか、この辺……人気ないな」
「な」
観光客はあまり入ってこないのだろう住宅地を進み、小さな公園の前へ。
「みっつ~ん!」
本当に待ち合わせ場所はここだっただろうかと不安になり、スマホを確認しようとしたその時、元気な声が聞こえた。顔を上げればハルがぶんぶんと手を振りながらこちらに走ってきている。
「みっつん褒めて褒めて、今日は姉ちゃん達に見つからずに家出られたし、着いてこられなかった!」
「そうか! いやぁ助かる、ハルには悪いんだけど俺本当にハルのお姉さん達苦手でさ……」
「俺に悪いとか思わなくていいよ~、俺と姉ちゃん達だけの時は普通に楽しいいい姉ちゃんなんだけどさ~……みっつん絡むと途端に、はぁ……」
「お前の顔のせいか」
「そうだな……俺の顔があまりにも良過ぎるから」
「ホントに顔良過ぎるから冗談か本気か分かんないんだけど~」
くすくすと笑っているハルの着ている服は昨日の二百万はするだろうという着物ではない、金魚が泳いでいる涼し気な柄だ。
「ハル、今日の着物は昨日のとは違うんだな。それもやっぱりバカ高いのか?」
「もぉやだみっつん、これ着物じゃなくて浴衣~。カッコつけて小紋にしたけどやっぱり夏に着ると暑かったからね~、浴衣にしてきたの。浴衣ならさっと着れるから姉ちゃんに見つかりにくいしぃ~」
「……そうなのかー」
着物の種類は小物は和装キャラが出てくる作品にハマったことがあるので分かっているつもりだったが、オタク知識も使わなければ錆び付いてくるものらしい、最近は和装キャラのぬいぐるみやその服を作ったりしていないのですっかり知識が失われている。資料として和服についての本を買ったから、読み返せばすぐに思い出せるはずなのだが……ハルから断片的に用語を聞くだけでは俺の記憶の扉は開かない。
「みっつん分かってなくな~い? 別にいいけど~……んっ?」
楽しげに笑っていたハルが目を丸くする。俺と同じく鈴の音が聞こえたのだろう、よく通るのに大きくないその音は人の注意を引きつける。
「お待たせなのじゃ」
鈴の音が止んだ直後、ミタマがぬっと姿を現した。
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