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デートのお話

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風呂後のアイスを食べている途中、アキに自分の分のアイスを与えながらセイカが口を開いた。

「さっき俺達の様子聞いてたけどさ、鳴雷の方はどうだったんだよ。霞染とのデート……俺達ほっぽって行ったんだ、ちゃんと楽しんだだろうな」

若干の恨みを感じる。

《チョコ味も美味ぇな~。俺のはイチゴなんだぜスェカーチカ、あ~ん》

「ん、ありがと……美味しい」

なんという自然なイチャつき、俺も見習いたい。

「そうだな、まず……」

俺はハルと回った店の話や、神社での出来事、ハンバーガーショップで遅めの昼食を取ったこと、ハルとのデートを順番に語っていった。

「ハルは普段から可愛いんだけど、着物姿のハルは特に可愛くってなぁ~……なんで和装ってあんな股間にクるのかな、上品なイメージあるからかな? 脱がしたくなんだよなぁ~」

話の合間にハルの可愛さを都度語った。

「見た目ももちろんだけど中身が最高なんだよなハルは。腕組んでくるくらい積極的なのに俺から行くとすぐ照れるし、ずっと像の修理してるだけでも楽しいって言ってくれるしさ~……いい子、かわゆい……意外と食うしな、食べない時食べないだけで普段は食べるみたいでさ、ガッツリハンバーガー食べてて萌えた。いいよな~細い子がバクバク食べてる姿……エロカワ」

「ぁ……ささくれ」

ハルの可愛さ語りにはあまり興味がないらしく、セイカは自分の指先を眺めて……ん? ささくれ?

「ささくれ!? 大丈夫かセイカ、具合はどんなもんだ? 血は出てるか?」

「えっ、ぁ、だ、大丈夫……大したことないから」

「これ以上剥けちゃ大変だから絆創膏貼っとこうか」

「えぇ……大袈裟。ごめん話遮って」

絆創膏を貼り終えたので続きを話そう、一番話したいのはミタマのことなのだ。

「で、帰る時にホテルの前でナンパされてさ」

「お前五メートル歩く度に逆ナンされる顔面だもんな」

「男の子男の子。関西弁糸目和服美人」

「…………13キロ!」

「残念! その子は金髪だったんだよな、最近のセイカ話合うようになってきててほんと嬉しい」

連絡先は交換出来なかったけれど、ミタマは「出直す」と言っていた。朝になったらホテルの前で待っていたりするのだろうか? そういえばミタマは「仮の宿屋」と言っていたが、何故俺が宿泊客だと分かったのだろう。ホテルに入ろうとしていたならまだしも、あの時俺は確かホテルに向かっていただけで……ホテルの前を通り過ぎようとしているだけの人間の可能性もあったはずだ、なのにミタマは宿泊客だと断定した。

(……まぁ、思い込みしやすいタイプってだけで説明は付きますが)

あの胡散臭さだ、ホテルの前で俺を初めて見つけた訳ではないのだろう。デートのためホテルを出た時から見ていたかもしれない、泊まりに来た時かも。

「で? ナンパされて……どうしたの? 十……えっと、五人目? にすんの?」

「俺はそのつもりなんだけど、あの子ここの子だろうしなぁ……また会おうって感じの言い方してたけど、連絡先も交換してないし」

「ふーん……? じゃあ、明日見かけたら声掛けておかないとだな。俺も探すよ、見た目の特徴他にないのか? 金髪で目が細いだけじゃ厳しいぞ、服装だって明日も和服かどうか分かんないし」

「狐っぽい」

「は……? あぁ、まぁ……キツネ顔って目が細くて吊ってるイメージあるけど……あぁ、ツリ目なんだな?」

「偽物の美術品売り付けてきそうな感じ」

「最悪の説明。やめとけ第一印象がそれのヤツ彼氏にするの」

「可愛いんだもん! 騙されたい!」

「お前いつかとんでもない目に遭うぞ……」

「男はみんな美人に騙されて破滅したい願望を持っている!」

立ち上がり、腕を広げ、本心からの雄叫びを上げた俺にセイカは深い深いため息を返した。

「その悪癖さえなければ鳴雷は完璧なのに」

「玉に瑕がない人間なんて人間じゃないぜ」

「はぁ……しかし、狐っぽいねぇ……そんなので見つけられるかな」

「正直それさえ分かってれば視界に入った瞬間分かると思う」

「それは狐っぽい人間通り越して狐だろ」

「…………」

軽口を叩いたつもりだったのだろうセイカは俺の神妙な表情に疑問を抱いた。

「……おい? 鳴雷?」

「像、修理した話したよな? 狐の像、首が取れてた。それでさ……そのミタマって子、マフラーしてたんだよこのクソ暑いのに……! 何か急に出てきて急に消えた狐っぽい美少年! これはさぁ、もうさぁ……なぁ?」

「…………アニメの見過ぎだろ」

サキヒコが隣に居るのだ、石像がお礼を言いに来た可能性だってゼロじゃない。

「うん……ただ狐っぽいだけって可能性のが高いし、この妄想はいくら何でもファンタジー過ぎるとは思う。まぁ狐っぽい子探せば見つかるだろうから頼むよ」

「はいはい……明日もマフラー着けてたら見つけやすいんだけどなぁ」

「…………こういうのって正体見破ると逃げたりするじゃん、鶴の恩返しとか、蛤女房とか……異類婚姻譚に真実は不要! 俺はコンちゃんをただの人間だと信じて行動する! 思考にも出さないように気を付ける!」

「コンちゃん?」

「あぁ、ミタマのタマが魂だからコンって呼んでくれって」

「コン……」

セイカは左手の親指と中指と薬指を合わせ、小指と人差し指を立てた。手で狐を作ったのだ。そして手を顔の前に持っていき、親指と中指と薬指で出来た輪っかを覗く。セイカの目が指の隙間から俺を捉えている。

「コン」

「ぁむ……これはアイスクリームバニラ味だね、飲み込んでいい?」

「元からお前のだろ勝手にしろよ」

「ネタ振ったんなら最後までノってくれよ何で急にハシゴ外すんだよ「よし」って言えよぉっ!」

「ごめん……鳴雷のその反応が見たくて」

「弄んで嗤ってくれマイハニー!」

「ふふ……うん、面白いよ鳴雷。アイス、溶けるから早く食えよ」

楽しい。やはり美少年に弄ばれることほど楽しいことはない、ミタマも俺を弄んでくれそうな見た目をしているから期待したい。

《スェカーチカ、これ何? 今やってたヤツ》

アキは両手ともで狐を作っている。

《狐。影絵とか知らないか? お前の国山ほど居るだろ、狐》

《首に巻いてる人何回か見た》

《生きてる状態で襟巻きにするのか……ロシアは何でちょくちょく想像の斜め上を行くんだ?》

《日本の想像力が貧困なんだろ》

《漫画アニメ大国になんてこと言うんだ……》

《ゲームはロシアが制してるぜ? かの有名な落ち物ゲーはロシア製だ》

《前俺が鳴雷から聞いてお前に教えてやった情報を俺にドヤ顔で話すな! レベル3にも進めてないくせに》

詳しい内容までは分からないが雰囲気は掴める。ふざけたことを言ってセイカにツッコまれ、呆れられているのは兄弟共通のようだ。
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