上 下
453 / 1,942

本屋のバックヤードで愛を叫んだケダモノ

しおりを挟む
学校が終わったらいつも通り本屋でバイトだ。月曜日からわざわざ本屋に来た客達に本を売る……のはセルフレジの仕事、俺達は本の整理と管理が主な仕事だ。

「今朝お前の元カレに会ったよ、心臓止まるかと思った」

「インターホン鳴らされたっすよ、怖かったっすぅ……」

「どうしようなぁホントあの人……捕まった人と話す面会室みたいなのがあれば話し合いもやぶさかじゃあないんだけど」

「ないっすよそんなもん……はぁ、本当……すいませんっす。俺が悪いんすよ、ちゃんと別れずにせんぱいとなんて……そんなことしたから」

ここはバックヤードではない、抱き締める訳にはいかない。落ち込んでいる様子のレイの頭を撫でるに留め、優しい微笑みを向けてみた。

「……大丈夫、俺が守るよ」

「せんぱい……」

不安そうにしながらもレイは俺に微笑み返し、元カレの話はそれで終わった。真面目に仕事をこなし、配達を終えて戻ってきた歌見と共にバックヤードに戻った。

「お疲れ様っす、ジュース買ってきたっすよ」

「ありがとう、レイ」

レイが炭酸ジュースを持ってきたのでそれを回し飲みし、脱ぐのを忘れていたエプロンを脱いで畳む。

「そろそろバイクも暑い時期だ、もっとスピードが出せればまだ涼しいんだがな……市街地じゃそうもいかない。配達が真昼間じゃないだけマシと思うべきなんだろうけどな」

「そろそろクーラー点けるか迷うっすよね」

「六月中は扇風機で何とかなるだろ」

「歌見せんぱい意外と暑さに強いんすね」

「意外とって何だ意外とって」

キモオタデブスだった頃は冬でも汗をかいていたので、六月だろうと暑くなったらクーラーを点けていた。この体型になってからまだ夏を経験していない俺は会話に入れない。

「そういえば水月、リフォームってどれくらいかかるんだ?」

無言で居た俺に気付いたのか、歌見が話題を振ってくれた。

「一ヶ月から二ヶ月の間って聞きました」

「ふぅん……新しくなったらまた遊びに行きたいな。彼氏みんな呼んで……そうだっ、カミア、お前カミアと付き合ってたんだってな!? 顔だけ見りゃ納得だが……アイドルと……もうショックであの時の記憶が曖昧なんだ」

「はは……すいません黙ってて、カミアに秘密にしてくれって頼まれてて……なのに来ちゃうなんて、人を振り回してくれますよね。アイドルらしいって言うか」

「まぁ一応時雨の弟とも付き合ってるとは聞いてたからな、お前を責める気はないが……あのカミアと同じ立場なんだよな、俺って」

俺の彼氏という意味では同じ立場だな。

「…………自信失くす」

「そんな、歌見先輩には歌見先輩にしかない魅力がっ……この雄っぱいがあるじゃないですか!」

「ぅあっ……!? 急に胸を揉むなバカ! クソっ……最近お前のせいで胸元が開いた服着るの恥ずかしくなってきたんだからな!」

「女の子みたいなこと言うっすね」

「なにそれエッッッロ」

豊満な胸元が性的な目で見られることを知らずに無防備に過ごしていた歌見もよかったが、最近の俺の視線を感じると胸が見えないよう上半身の角度を変える女性的な仕草をするようになった歌見も素晴らしい。

「……最近買った服全部首詰まってる服なんだ。暑いってのにタンクトップ着てるとなんか恥ずかしくて……汗疹になったらお前のせいだからな」

「先輩、一ついいことを教えてあげます。谷間隠そうと胸パツパツな時点でエロいです。タンクトップの谷間と横乳と同じくらいの破壊力あるパツパツです。母さんも言ってました、巨乳はタートルネックを着ろって……つまり脱ごうが着ようがエロいんです!」

「ド変態っ! でもっ、クソっ……タートルネックと思うと、確かに着てても無駄か……」

「何悩むことがあるんすか、何着ててもせんぱいにエロい目で見られてるとか最高じゃないっすか」

「何言ってんだレイ、ぶかっとしたパーカーなんてエロの権化だろ……!? タイトなズボンばっかり着やがって俺を外で勃たせる気か!」

むすっとした顔で歌見を見つめていたレイは俺を見上げてパァっと花が開くような可愛らしい笑顔を浮かべた。

「ぺたんこ胸を気にしてるのか素人め! 薄着ならまな板っぷりが強調され、ふわもこ系の服はシンプルに可愛くて背徳感が煽られエロス! そもそもな、レイ! お尻大きかったり太腿むっちりしてたりメス化体型な時点でドチャシコなんだが!? 着ぐるみ着てもお前という人間のエロさは誤魔化せねぇぞ公然わいせつ罪で逮捕だ! 六ヶ月間俺とヤり続けるか三十万分のコンドーム使い切るか選べ!」

「何言ってんだお前気持ち悪いぞ」

「えへへへへへへ」

「木芽めっちゃ喜んでる……え? 俺がおかしいのか? 違うよな。水月、その熱量で十一人全員愛してるのか? 平気か……? 脳とか。今日は早く帰って冷たい風呂に入った方がいいぞ、風邪引くなよ」

俺はただレイへの愛を叫んでいただけなのに、何故か歌見に心配されていつもより早く帰されてしまった。




バイト帰りにスーパーに寄って帰宅。食材をキッチンに運び、寝室へ。

「ただいまー……?」

アキが玄関に出迎えに来なかったのは寝ているからかななんて思っていたけれど、寝室に彼は居なかった。不思議に思いながら通学カバンを置いて部屋着に着替えた。

「レイ、アキそっちの部屋に居たか?」

「へっ? 寝室じゃないんすか? アキくん俺の部屋には入んないすよ、パソコンとか資料とかあるんで入んないでってお願いしてるっすから」

「え……? 風呂……暗いな、えっ? アキ……アキー?」

レイと共に一部屋ずつ見て回った、クローゼットなどの人が入れそうな収納も残さず調べた、だがアキはどこにも居なかった。

「…………居ない。なんでっ、アキ! どこかに隠れてるなら出てこい! かくれんぼならお兄ちゃんの負けでいいから! アキ! アキっ……どこに」

血の気が引いていくのが分かる。動かずにはいられなくて、ただ廊下を往復する俺の手をレイが掴んだ。

「落ち着いてくださいっすせんぱい! 電話かけてみましょうっす」

「あ……あぁ、そうだな、電話……」

以前居なくなった時は公園で遊んでいたんだったか、アレは俺の家の近所の公園だったからまだよかった。治安の悪いこの町で夜に外を歩き回るなんて、それも目立つ美少年であるアキが……危険過ぎる。

「アキ……アキ、出てくれ、アキ…………もしもしっ?」

電話に出てくれることを願いながらスマホを握り締めていると、想像以上にあっさりと電話は繋がった。

『……もしもし?』

アキは知らないはずの「もしもし」という言葉で返事をした声はアキのものには聞こえなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる

海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?

犬用オ●ホ工場~兄アナル凌辱雌穴化計画~

雷音
BL
全12話 本編完結済み  雄っパイ●リ/モブ姦/獣姦/フィスト●ァック/スパンキング/ギ●チン/玩具責め/イ●マ/飲●ー/スカ/搾乳/雄母乳/複数/乳合わせ/リバ/NTR/♡喘ぎ/汚喘ぎ 一文無しとなったオジ兄(陸郎)が金銭目的で実家の工場に忍び込むと、レーン上で後転開脚状態の男が泣き喚きながら●姦されている姿を目撃する。工場の残酷な裏業務を知った陸郎に忍び寄る魔の手。義父や弟から容赦なく責められるR18。甚振られ続ける陸郎は、やがて快楽に溺れていき――。 ※闇堕ち、♂♂寄りとなります※ 単話ごとのプレイ内容を12本全てに記載致しました。 (登場人物は全員成人済みです)

ポチは今日から社長秘書です

ムーン
BL
御曹司に性的なペットとして飼われポチと名付けられた男は、その御曹司が会社を継ぐと同時に社長秘書の役目を任された。 十代でペットになった彼には学歴も知識も経験も何一つとしてない。彼は何年も犬として過ごしており、人間の社会生活から切り離されていた。 これはそんなポチという名の男が凄腕社長秘書になるまでの物語──などではなく、性的にもてあそばれる場所が豪邸からオフィスへと変わったペットの日常を綴ったものである。 サディスト若社長の椅子となりマットとなり昼夜を問わず性的なご奉仕! 仕事の合間を縫って一途な先代社長との甘い恋人生活を堪能! 先々代様からの無茶振り、知り合いからの恋愛相談、従弟の問題もサラッと解決! 社長のスケジュール・体調・機嫌・性欲などの管理、全てポチのお仕事です! ※「俺の名前は今日からポチです」の続編ですが、前作を知らなくても楽しめる作りになっています。 ※前作にはほぼ皆無のオカルト要素が加わっています、ホラー演出はありませんのでご安心ください。 ※主人公は社長に対しては受け、先代社長に対しては攻めになります。 ※一話目だけ三人称、それ以降は主人公の一人称となります。 ※ぷろろーぐの後は過去回想が始まり、ゆっくりとぷろろーぐの時間に戻っていきます。 ※タイトルがひらがな以外の話は主人公以外のキャラの視点です。 ※拙作「俺の名前は今日からポチです」「ストーカー気質な青年の恋は実るのか」「とある大学生の遅過ぎた初恋」「いわくつきの首塚を壊したら霊姦体質になりまして、周囲の男共の性奴隷に堕ちました」の世界の未来となっており、その作品のキャラも一部出ますが、もちろんこれ単体でお楽しみいただけます。 含まれる要素 ※主人公以外のカプ描写 ※攻めの女装、コスプレ。 ※義弟、義父との円満二股。3Pも稀に。 ※鞭、蝋燭、尿道ブジー、その他諸々の玩具を使ったSMプレイ。 ※野外、人前、見せつけ諸々の恥辱プレイ。 ※暴力的なプレイを口でしか嫌がらない真性ドM。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

処理中です...