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「日高さんが、あなたがは墓場まで持って行く、という発言を聞いたみたいなんですよ。それを自分では聞き辛いから代わりに聞いてくれって言われたんです。まぁ、そもそも日高さんの勘違いかもしれませんが」

それも反応を見たら分かることだ。
その老人の反応は意外だった。

笑ったのだ。
ふはっ、ふはと。口の端から漏れるような笑いだった。

そしてその笑いは、どことなく自嘲を含んでいるように思えた。

「どうなんです」と、測りかねた俺は直接聞いてみることにした。

「人に、何かをお願いする時には相当の仕方がある」

「いや、別にいいんですよ。どっちでも。無ければ無いでいいですし」

そっちの方が日高さんにとっても俺にとってもいいだろう。

「逸るな」と老人は言い、重い腰を上げた。

「自分で招いた種とはいえ、キミがくるとは。私の口から、その答えを言うことは出来ん」

「できん、って‥」

「この、密花と綾瀬からの頼み事を、君は無視することも出来る。が、先程も言ったが、目を背ける事では何も解決はせん」

目も背けるも何も、俺は関係がないわけで。

「これは、葉隠家と、夢野家が絡んだ問題だからだ」

「葉隠家と、夢野?」

葉隠とはこの老人の苗字だ。そして夢野とは俺の苗字。
その二つの家が絡んだ問題?
どう言う事だ。

「実は、私の寿命は本来綾瀬が二十歳になる頃、つまり半年前と言われていた。しかし、今もこうして、何故か生きている。神からの、お告げのように思える。逃げられない、と」

天井を見つめ虚ろな表情でそう言う老人は、確かにもう死の淵に足をかけているようにも見えてくる。

「ヒントを、伝える。これは私にとっては何の得も無い、やるべきでは無いことかもしれんが、ことの結末は、キミに託そうと思う。こうなったからには、それが、必然のような気がしてくる」

「あの!すみませんが、さっきから本当に、何を仰りたいのかが全く分からないんです。馬鹿にも分かるように言ってもらえますか?」

老人はふっと笑って、俺の言葉には返答せず続けた。

「ヒント、の始りに、夢野家は全く関係していない。言わば、巻き込まれただけ
 ヒント、が明るみになったとして、恐らく葉隠家の血を引く者は誰一人として幸せにはならん。
 ヒント、私はキミが嫌いだ。しかし同時に、期待している。
 最後のヒント」

先ほどまでのゆっくりとした口調から嘘のように流暢な口調へと変わった。

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