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「ごめん、力になれそうにない」

俺は素直に思っている事を伝えた。

彼女は「そうですよね‥」と寂しそうに言っ後「分かりました」と笑顔を繕った。

「どうするかはまるで答えを出せないですが、一度考えてみます」

ありがとうございました、と彼女は立ち上がり頭を下げた。その横顔はとても寂しそうだった。

マスター、お会計と二人分のお金を払おうとするので「ちょっと、払うって」俺は財布を取り出そうとするが声で制される。

「誘ったのは私なので。これくらいは」

「いや、本当にいいよ」俺も立ち上がり、1,000円札を渡す。

じっとそれを見た日高さんは「そしたら、一応」と言い財布の中へと入れた。

「おや、もう帰るの?」

「はい。また来ます」

「そうなんだぁ。またしてほしいな。二人の掛け合いがまたみたい」

お釣りを日高さんに渡す。日高さんがそのお釣りを俺に渡してこようとしたその時。日高さんのスマホが鳴った。

すみません、と軽く頭を下げ少し離れた場所へ走っていく。

「良い子だろ。みっちゃん」

マスターが暖かみのある目で日高さんを見ている.

「はぁ」

気の抜けた返事をすると「君は、みっちゃんの友達?」と聞いてくる。

俺は首を傾げる。友達、なのか?

「何か頼み事をされていたね」

「えぇ」

そう言えば。
このダンディー風なマスターを見ていてふと疑問が湧き起こる。

「マスターは、日高さんの叔父なんですよね?」

「あぁ、そうだよ。よく似てないって言われるけどね」

優しい口調は小さい子に語りかけるそれだった。

「少し会話の中で日高さんのお祖父様の話になったのですが、どんな方なんですか?」

「え、親父?」

うーんと苦笑いをする。

「頑固で真面目で、何より家族を重んじる人かな」

「えっ。でも、マスターとの仲はそんなに良好ではなかったって」

「それ、みっちゃんから聞いたの?」

あははっ、と笑って「まぁ、そうだよ」と答えた。

「会話らしい会話は無かったかな。壁を作られている感じがしてね。でも、家族の為に懸命だった事は間違いないよ」

「そう言えるエピソードがあるんですね?」

「あぁ、あるよ。一つ挙げるとしたら、俺の女運の悪さの例が分かりやすいかな。俺、女性を見る目がなくてさ。色々と騙されかけているんだよ。それを聞いた妹、あ、みっちゃんのお母さんね。そこから親父の耳に入って、その日のうちに弁護士を雇ったりと凄い早さで動いてくれてね。まぁ、こう言っては何だけど、頼りになる親父でね」

最後は父親の自慢をする子供のように嬉しそうだった.
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