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「カンジョーくんなら、出来ますか?大好きな人が、墓場まで持っていきたい秘密があるって知ったとして。それを、聞き出すこと、出来ますか?」

どうだろう。俺は考えてみる。

「‥」

「あぁ‥」

分からない。
自分の想像力、共感性の無さに、少しモヤモヤする。
特に、日高さんが期待を込めた目で俺の顔を見ているので尚更だ。
だったら何で君はその秘密を知りたいのか。目を背けたくなるような現実が今あって、それに向き合わなくてもいいのならそれでいいじゃないか。
空耳だった、勘違いだったと信じ込めばいいじゃないか。

俺の悪い癖で、またもや考えは顔に出て言葉に出てしまう。

日高さんは口を開け、少し睨みをきかせながら言葉を続けた。

「祖父は、もういつこの世を去ってもおかしくありません。私は、現実を現実としか受け入れません.天国でまた会おう、なんて考えれない人間なんです。だから、今この瞬間しか機会がないかもしれないんです。生きている間しか‥。でも、怖いんです。ごめんなさい。我儘を言っている自覚はあるんです」

俺は、日高さんの葛藤を聞いて何だか懐かしい感覚に陥った。
昔、似たような相談をされた気がする。
思い出すこともできないほど、遠い記憶だけど。

「俺はさ、失礼な人間でさ」

「知ってます」

「いやそこは否定してよ」

「そして人間嫌いでもありますよね」

「勝手に決めつけるな」

そして追い打ちをかけるな。

「あの、率直に失礼な事を聞くかもだけど、正直日高さんはおじいさんの秘密は何だと思うの」

仮に秘密があったとして、が前提だが。

「色々と思い巡らせたんですけど‥。分からないんです」

親族の日高さんが分からないんじゃ、俺に想像出来なくても仕方ない。

「綾姉やマスターが聞くのは難しいの?直接じゃなくても、なんか心当たりがないかどうか聞いて見たら何かわかるんじゃないか?」

「それが無理なんです」

「どうして?」

「さっき私と母は祖父に溺愛されてるって話をしましたよね?自分のことよりも家族のことを考える、そういう人なんです。でも、綾姉とマスターには何と言いますか、少し態度が違うんです。違うと言っても露骨じゃないんです、笑顔が少ないとか、口数が少ないとか、そんなレベルです。でも、少なくともその態度の違いは第三者から見ると明らかです」

「それは、えっと‥何か理由が?」

「いえ、それも分からないんです」

節目がちに日高さんが答える。

俺は少し冷めたコーヒーを飲んで考える。

さて、困った。

分からないことが多すぎる。
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