会議で、事前に資料を練り上げ、データの裏付けをもとにしっかりと準備した内容をプレゼンしたのに、急にふわっと出してきた同僚の意見に議論の流れが持っていかれる……。こんな経験は、決して珍しくありません。「確かに同僚の意見は良かったけど、自分も頑張ったのに……」と心の中でつぶやいた経験がある人もいるでしょう。
データを見ながら、頭をひねって何か発言しても、「なるほどね」で終わったり、「ふーん」と流されてしまう。
その一方で、隣の同僚や後輩は、同じデータを見ながら突破口となるようなセンスの良い解決策をポンっと出したりして、「なるほど!」と全員を納得させてしまうようなアイデアで次々と成果を上げている。
このような「センスが良い」とされる人たちと他の人は、何が違うのでしょうか?
彼らは一見、同じ情報を使っているように見えて、その「裏側」にある隠れたホンネや欲求を見つけ出し、それを的確に活用しています。いわば「いつもの思考」の裏側に目を向けているのです。
マーケティング用語でこれを「インサイト」と言います。優れたアイデアや解決策を出してくる人たちは、ほとんど無意識に「インサイト」を探し出して使っています。センスの良いアイデアの源泉となる、この「インサイト」を探し出すための「裏側の思考法」を具体的に示すのが「インサイト思考」です。
私は、広告会社・電通で長年マーケティングを担当してきました。クライアントの商品をよく売れるようにしたり、こちらの狙い通りにイメージを持ってもらったり、生活者に動いてもらうためのマーケティング戦略を作るのが私たちの主な仕事です。その戦略に基づいて、人々に商品を買ってもらうための方法や広告の出し方が決まっていきます。
電通のマーケターは、クライアントから日々「売れない、あるいは売れなくなった商品をどうにかしてほしい」というご相談をいただきます。これまでのやり方では行き詰まってしまった、別のやり方を検討することが必要になった、などの局面を迎え、なかなかうまくいかない現状を打破するためのご相談が、次々と持ち込まれるのです。
そんな電通のマーケターが現場で実践しているマーケティングのプロセスの中で、心臓部と言っても差し支えないのが、この裏側から考える「インサイト思考」です。
「裏側から考える」インサイト思考を一言で説明するならば、「インサイト=人を動かす隠れたホンネ」を考えていく思考法です。 行き詰まった現状を突破し、少ない力でより大きな成果を得られるのがそのメリットです。広告業界では「インサイト思考」が数多くの成功事例を生んできました。
さて、なぜ「裏」がいいのでしょうか?
それは、普段は表に出ない「隠れたホンネ」にたどり着けるからです。