「裏側から考える」だけで、新たな発想が見えてくる。仕事が一気に面白くなる。
それを体感してもらうために、ここで一つ事例を見ていきましょう。
あなたは、コカ・コーラを売る仕事をしていて、「マンネリ化したこれまでとは違う、新しい広告を作って、コカ・コーラをもっと売りたい!」と考えているとしましょう。そのために、次のグラフを見たとして、どんな情報が得られるかを考えてみてください。どんなことがわかりますか?
よくあるアイデアは次のようなものではないでしょうか?
「うーん、どっかで見た感じだよね……」広告を見た人からは、きっと、そんな感想が出てくることでしょう。当初目指していた「新しい広告」からは遠く離れています。
一方、実際のこの広告の担当者は、次のようなことを考えたそうです。
そこで、周囲の友人たちに「コカ・コーラはいつ飲むと美味しいと思う?」と尋ねてみたところ、みんな「うーん……いつって言われても……」と答えたそうです。
この生の声の「うーん……」は、先ほどのグラフの中には出てきません。
この「うーん……」とは、何なのでしょうか? 自分の感覚で表現するならば、「コカ・コーラには『急に無性に飲みたくなる』という衝動があるのではないだろうか?」と、担当者は思ったそうです。
そこで、実際に生み出されたのが、コカ・コーラの「わけもなく、急に無性に飲みたくなる」強い衝動を体感させる「No Reason(理由はない)」という広告です。少し前のものになりますが、2001年のコカ・コーラの広告で、爆発的に売上を伸ばした、日本独自のコミュニケーションでした。
※『広告マーケティング力』(広告マーケティング力編集委員会編 誠文堂新光社)
実は、この担当者がつかんでいた「コカ・コーラは、わけもなく、急に無性に飲みたくなる」という、データには表れてこなかった気持ちこそが「インサイト」です。「暑いとき」「ハンバーガーを食べたとき」のような、すでに見えている「表側」の理由ではなく、その「裏側」にある「隠れていたホンネ」を見いだして、前例にない広告をヒットさせたのです。
「表側から考えるか、裏側から考えるか」で、アウトプットは大きく変わります。
データの表面に見える事実をもとにロジカルに最大公約数をとろうとして行き詰まるときは、自分の感覚をたよりに裏側にあるインサイトを見つけることが突破口になります。表側から考えて行き詰まりそうなときは、裏側から考えてみることで、「確かに!」「言われてみれば!」「そうそう、それがこの商品の魅力!」「よくぞ言ってくれた!」と共感されるインサイトを生み出すことができるのです。
とはいえ、この「裏側から考える」ことが難しい。「結局はマーケター一人ひとりの「センス」や「感性」「直感」に頼らざるをえない、属人的なものなのではないか?」と感じることもあるでしょう。
そこで私たちは、「インサイト」を発見する思考法を明らかにするために、業界内で成果を上げているマーケターたちへの詳細なインタビューを実施し、共通点を抽出しました。誰もが「インサイト」を見つけられるようになることを目指し、これまで属人的とされてきた暗黙知を言語化し、たった1つの「型」としてまとめたのです。