この意識はノンアルコール人気にも通じる。「酔うのは苦手」だけれど、「ビール味やワイン味は好き」な人も多い。メーカーもそうした層に向けたノンアル訴求を行う。
嗜好品なので個人によって違うが、総じてカジュアル化が進み、同調圧力ムードも減った結果、「自分らしさ」を表現したい人が増えたのではないだろうか。
最後に、食品ブランドとして「基本性能」+「付加価値」の視点で考えてみた。
TAGコーヒーの付加価値は、冒頭で紹介した「その日の気分に合わせて、自分好みのコーヒーにカスタマイズできる」だ。基本性能である「味」についてはどうだろう。
「お客さまからは『ラベルに惹かれて注文したけれど、おいしいですね』と言われます。当社は、コーヒーや清涼飲料を次々に発売する会社ですから、味わいや飲みやすさにもこだわります。紅茶でもブラックティー、フルーツティー、ラテの多彩な味をそろえました」
さまざまな飲料ブランドを出すサントリーは、TAGコーヒーを通じて消費者意識を探っているのではないだろうか。メーカーの現場では「生活者インサイト」という言葉も耳にする。「商品を買う消費者ではなく、生活者としての深層心理や潜在意識を探り、その心理や意識にアプローチする」という意味で使われる。
「映画館だけでなく、関東近郊ではキッチンカーでの販売も行っています。提供場所が移動できる機動性を生かしてスポーツスタジアムにも出店しました。今後はイベント等での出店を増やし、お客さまの多彩な『好き』をサポートしていきます」
食品ブランドが人気を呼ぶ理由には「参加」「限定」もあり、長続きする理由には「美味しい」「楽しい」がある。美味しさは機能性だが、楽しさは情緒性だ。滑り出し好調なTAGコーヒーは、今後どう進化させていくのだろうか。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)