LINEで事前に注文や代金決済を行い、店舗で専用ロッカーから取り出すという提供スピードも訴求した。
ところが、送り手側の訴求に対して、利用する受け手側は、違う部分に反応した。
「商品の取り間違いを防ぐ意味もあり、ボトルとラベルに名前やカラーが自由に選べる機能をつけました。これが思わぬ反響を呼んだのです。
当初は、お客さまご自身の名前を入力されるのをイメージしていましたが、実際には好きなアイドルやアニメキャラクターなどを入れる方が続出。推し活としてウケるようになり、さらにSNSで拡散されて話題が高まったのです」
サントリーは、この市場性に目をつけて「ラベルのカスタマイズ」にフォーカス。新たに推し活を意識した「TAGコーヒー」として立ち上げたのだ。
博報堂グループの共同研究プロジェクト「コンテンツビジネスラボ」が毎年実施している全国調査「コンテンツファン消費行動調査2022」というデータ(https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/99664/)がある。
それによれば、「生活者のコンテンツへの年間平均支出額は6万653円」(前年比-6548円)だが、ファンクラブ市場は伸びており、「推し」への応援消費は好調だという。
また、「マイナビウーマン」が行った「推し活を楽しむ女性の消費傾向」調査では、「推し市場の消費は『アイドル沼』と『アニメ・キャラクター沼』の2大勢力が占める」という分析があった。ここでいう「沼」は、ハマったら抜け出せないという意味で使われる言葉だ。
「TAGコーヒーでは、ラベルに刻印(入力)されるのは、男性アイドル、スポーツ選手、アニメのキャラクターが多く、その相手には『こんなデザインがふさわしい』という思いでラベルのデザインを選ばれています」
推し活の市場規模は(どこまで含めるかで数字は変わり)、1000億円超とも6000億円超ともいわれる。「ファン」よりも「推し活」は、行動の主体性も感じられるネーミングだ。
以前から芸能人以外の「推し」行為はあった。たとえば、筆者は十数年前、有名プロ野球球団の取り組みを何度か取材した。その際に「まだ一軍に上がれない選手の将来性やルックスに目をつけて、二軍練習場や二軍キャンプに熱心に通うファン」の存在も聞いてきた。
TAGコーヒーには紅茶もあるが、基本はコーヒー系飲料だ。近年は消費者の「コーヒー」と向き合う意識が変わってきた。
以前の記事でも紹介したが、「カフェや喫茶店で、若者はドリップコーヒーを頼まない」「中年世代も、昔ほどドリップコーヒーを注文しない」という話をよく聞く。
サントリーの看板ブランド「BOSS」には、ペットボトル飲料「クラフトボス」があるが、従来のコーヒーに比べて薄味で、その分、ゴクゴク飲めるのが人気だ。
さまざまなメーカーを取材すると、昔はあった“大人への通過儀礼”が好まれなくなった――という社会と意識の変化を感じる。
たとえば、年配者と一緒の会食でも「とりあえずビール」ではなく、最初から好きなドリンクを頼める。味が苦手なら、“ビールがわかる大人”にならなくてもよい。濃厚なコーヒー好きな若者も一定層いるが、苦手という人もいる。そういう人でも「コーヒー系」は飲みたかったりする。クラフトボスは、そうした層も支持しているのだ。