キリン、ビール会社から健康関連へシフトの裏側…「プラズマ乳酸菌」がバカ売れ

 キリンHD社長の磯崎功典氏は、メディアから「すでに競合がひしめく健康事業に注力するのは、レッドオーシャン市場ではないか?」と聞かれて、こう答えた。

「ただの健康事業ならレッドオーシャン市場かもしれません。でもプラズマ乳酸菌による免疫ケアは独自の取り組みです。当社としてはブルーオーシャン市場だと思っています」

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消費者の人気が高いビール類だが、市場は縮小している

「免疫ケア」をどう習慣摂取してもらうか

 前途洋々のように思える「プラズマ乳酸菌による免疫ケア」だが、課題も残る。もっとも大きいのは、「健康志向はあるが、飽きっぽい消費者」との向き合い方だ。

 日本の消費者は昔に比べて成熟した半面、失礼ながら、健康食品に関しては昔から「××が健康にいいと思えば飛びつく。でも長続きせず、習慣化に至らない人が多い」と感じる。過去の取材経験では、××には「ポリフェノール」「DHA」などが入るだろう。

「食品摂取の習慣化はなかなか難しく、最近の調査でも『免疫ケアは必要ですか?』と聞くと、必要と答える方が約85%いますが、『習慣的に行っていますか?』では、行っている方が約11%に下がりました。免疫の状態が自分でわからない一面もあるでしょう」

 こうした課題に対しては、「将来的には、免疫の状態を見えるようにする技術開発を、社内では検討しています」とも話す。

 2022年11月、キリンと花王は和歌山県立医科大学が主宰し、NPO法人ヘルスプロモーション研究センターが取りまとめるコホート研究(※)「わかやまヘルスプロモーションスタディ」に参画し、内臓脂肪と免疫の司令塔(プラズマサイトイド樹状細胞=pDC)などの活性について、その関連を調査する研究を共同で実施する――と発表した。企業の垣根を超えた共同研究も進めていく方針だ。
※コホート研究=疾病の要因と発症の関連を調べるための観察的研究のひとつ

「未病」という、社会課題の解決に貢献したい

 国内の取り組みだけでなく、すでに海外展開も進めている。

「2019年からベトナムで、280mlのペットボトル『KIRIN iMUSE』を発売していますが好調です。2020年9月~2021年1月にかけて、ベトナムの小学校1~3年生約1000名を対象にプラズマ乳酸菌の臨床試験を行い、有用な効果も得られました。今後はインドネシアなどでも事業を進め、さらにアメリカ本土でも事業を拡大していく予定です」

 キリンは「社会的ニーズや社会課題の解決に取り組む」(社会との共通価値の創造)も掲げる。ノンアルコール飲料「キリンフリー」(2009年発売)は、消費者の「運転前に安心して飲める商品を開発してほしい」という声にも後押しされて生まれたという。

 プラズマ乳酸菌を通じて実現する「社会課題の解決」は何になるのか。

「発病には至らないけれど健康な状態ではない『未病』に対して、プラズマ乳酸菌がどう貢献していくか、だと思います。人生100年時代となり、健康寿命の延伸も大切です。免疫は健康の土台なので、そうした健康維持がキリンの貢献にもつながると考えています」

 大企業であっても、事業環境の変化に対応できない企業は生き残れない。現在、同社は「食領域・ヘルスサイエンス領域・医領域」の3本柱を掲げ、3つの領域の融合も図る。

 20××年には“ビールのキリン”の、「ビール」が何に置き換わっているのだろうか。

(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)